2020年7月11日土曜日

ケインズ、チャーチル氏の経済的帰結The Economic Consequences of Mr. Churchill,1925

ケインズ、チャーチル氏の経済的帰結The Economic Consequences of Mr. Churchill,1925
https://freeassociations2020.blogspot.com/2020/07/the-economic-consequences-of.html @
西洋経済古書収集ーケインズ,『パンフレット』
http://www.eonet.ne.jp/~bookman/kikouhonn/keynes-pamph.htm
J・M・ケインズ(John Maynard Keynes)
https://ameqlist.com/sfk/keynes.htm
#9説得論集所収
 西洋経済古書収集ーケインズ,『パンフレット』 http://www.eonet.ne.jp/~bookman/kikouhonn/keynes-pamph.htm  KEYNES, J.M., PAMPHLETS  THE ECONOMIC CONSEQUENCES OF MR.CHURCHILL, London, Hogarth Press, 1925, 8vo., pp.32  「チャーチル氏の経済的帰結」。イギリスの金本位制復帰に関する新聞掲載論文を拡充したもの。 A SHORT VIEW OF RUSSIA, London, Hogarth Press, 1925, 8vo., pp.28 



カルドア1982がマネタリズム批判の嚆矢として(ヒックス1977とともに)高く評価している
(カルドアの引用は覚え書きの手前の最終部271,269頁#9を組み替えている)




 マネタリストのドグマがイギリス政府の公式の綱領となったのは、今世紀になってこれで二度
目のことである。その最初の時期は一九二○年代の こと であった。その 当時、カンリフ委員会
(Cunliffe Committee) とシティの圧力にあおられて、イギリスは戦前の平価で金本位制に復帰
しようとしていた~~いまではわれわれが知っているように、時の大蔵大臣ウィンストン
・チャ
ーチル(Winston Churchill)は敵意というほどではないが、その復帰に反対したにもかかわら
ず。その不幸な帰結とこの方策の反動的な性格は、ケインズ (Keynes) の 書い たパンフレット
(時代をはるかに先取りし、しかもその主題にかんする彼の後の著作のほとんどを先取りしたパ
ンフレット)で見事に分析された。そのなかで彼は金融政策を「個々人や特定の産業に対して
経済的必要という名の武器を用いて、……故意に失業を増加させる~~もし正確になにが行なわ
れつつあるかを知ったとすれば、けっして国民の許すところとはならない政策」をつうじて作用
する「労働者階級の生活水準に対する挑戦にすぎない」ものとの烙印を押した。その一○年間が
経過するにつれて、「レフレーション」政策に対する抵抗が強まった。一九二○年代の…



5 チャーチル氏の経済的帰結 (1925年
228
銀行は経済的圧力の方法と計画的な失業増大の方法とによって、基礎的調整を成し遂げようという試みを放棄しなけ」
ればならないだろう。したがって、それだけをとってみると、この政策は、アメリカにおける物価高騰の予想にあま
りにも賭けすぎているとの批判を免れないかもしれないだろう。
 これに対処するために、私はボールドウィン氏が以下のような方針で、労働組合の指導者たちと共同して、率直に
誠意をもって現実に立ち向かうように提案する。
 閣僚たちが、現在の賃金引下げの動きは貨幣価値と無関係であると偽りつづけるかぎり、労働者階級がその動きを一
実質賃金に対する計画的な攻撃だと受けとるのも当然である。自らの通貨政策はメキショ湾流と同じように事態と無
関係だという大蔵大臣の見解が正しいならば、現在行なわれている賃金引下げの呼びかけは、労働者階級の生活水準
に対する挑戦にすぎないということになろう、以上の諸節で述べた診断の正しさを政府が認めたとき初めて、政府は
公平で合理的な条件で労働組合指導者たちの協力を求めることができるのである。
問題は主として通貨面にあるのだということを認めれば、たちどころに政府は、労働者に向かって次のように語る
ことができようーー
「これは実質賃金に対する攻撃ではない。われわれはポンドの価値を一○パーセント引き上げた。これは貨幣賃金が一OK
ーセント下がらなければならないことを意味する。しかし、それはまた、調整が完了したとき、生計費質が約一○ペーセント低
下することをも意味する。この場合には実質賃金が大きく下落するということはないだろう。ところで、貨幣賃金の引下げを
遂行するのに選択的な方法が二つある。ひとつの方法は、賃金が押し下げられるまで、経済的圧力を利用し、信用引締めによ
って失業を増加させることである。この方法は強者のグループと弱者のグループの間に不平等な影響を与えるが故に、またそ
の進行中に経済的·社会的浪費が生じる故に、いまわしく有害である。もうひとつの方法は、協定によって賃金の一律引下げ

5 チャーチル氏の経済的帰結(1925年)
271

ら、長期的には物価は一般的に上昇するものであるから、長期的にみれば、 債券保有者たちはこの制度の受益者でなく被害者
なのである。
 賃金の一律引下げを自発的に行なおうという提案が、原則としては正当なことなのに、困難すぎて実際には達成で
きないのではないかと感じられるとしたら、私としては、すべてをあげて海外における物価の引上げに賭けてみたい
ーつまりイングランド銀行の現行政策を破棄したい||と思わざるを得ない。『マンスリー.レヴュー』(Monthly
Review) の七月号で知ったことだが、これはミッドランド銀行の首脳部が勧めているところでもある。 -
以上のどの提案にも非常な困難が伴うということは当然である。イギリス政府が採用しているような貨幣価値の人」
為的変更のためのいかなる計画も、現代の経済状態のもとでは、公正と便宜の観点からする異論に、対立せざるを得一
ないのである。以上は、一つの過失から生じる苛酷な帰結を緩和するための提案ではあるが、その過失を取り消した
としても、もと通りにできるというものではない。これらの提案は、本来の攻撃対象が単に貨幣賃金水準ではなく、
 実質賃金水準であると思っている悲観論者たちのお気には召さないだろう。私がここで述べようとしたのは、経済
必要という名の武器を利用して個人や個々の産業に対して種々の調整を強制するのと同様に、他の理由からすれば信
用を緩和すべきちょうどその時に、信用を引き締めておくことによって計画的に失業を増加させというイギリス の
現行政策は、もしも正確に何が行なわれつつあるかを知ったとすれば、けっして国民の許すところとはならない政策
であるということである。


KEYNES, J.M., PAMPHLETS 
  1. THE ECONOMIC CONSEQUENCES OF MR.CHURCHILL, London, Hogarth Press, 1925, 8vo., pp.32 
    「チャーチル氏の経済的帰結」。イギリスの金本位制復帰に関する新聞掲載論文を拡充したもの。
  2. A SHORT VIEW OF RUSSIA, London, Hogarth Press, 1925, 8vo., pp.28 
    「ロシア管見」。ケインズがバレリーナであるリディア・ロボコヴァと結婚後、新婦の故郷であるロシアを訪問した印象記。    
                  
  3. THE END OF LAISSE-FAIRE,  London, Hogarth Press, 1926, 8vo., pp.54「自由放任の終焉」。英・独での講演がもととなったもの。ケインズの資本主義に関する見解が述べられている。
  4. LASSE-FAIRE AND COMMUNISM, New York, New Republic, 1926, 12mo., pp.144 
    「自由放任と共産主義」。上記2.と3.のパンフレットを合本してアメリカで発行したもの
  5. CAN THE LIBERAL PLEDGE BE CARRIED OUT? MR.J. M. KEYNES SAYS ‘YES’, London, Liberal Publication Department, 1929, 8vo., pp.8「自由党の公約は実現できるか?ケインズ氏は‘是’と答える」。イブニング・スタンダード紙掲載論文「ケインズ氏がロイド・ジョージ氏の公約を検証する」のパンフレット化。
  6. CAN LLOYDE GEORGE DO IT? THE PLEDGE EXAMINEDWith H. D. Henderson, London, The Nation and Athenaeum, 1929, 8vo., pp48
    「ロイド・ジョージはそれをなしうるか?」。5.と同じく、ロイド・ジョージの公約支持の書。不況対策としての公共投資を説いた。
  7. THE MEANS TO PROSPERITY, London, Macmillan, 1933, 8vo., pp.87+3
    「繁栄への道」。乗数理論の初出。『一般理論』への道を開いた。
  8. HOW TO PAY FOR THE WAR, London, Macmillan, 1940, 8vo., pp.viii+88
    「戦費調達論」。戦費調達のための強制貯蓄の提案。
  9. TWO MEMOIRS: DR.MELCHIOR, London, Rupert-Davis, 1949, pp.106
    「回想録二編」。死後出版。ヴェルサイユの講和会議の交渉相手側であった「メルヒオル博士」と「若き日の信条」の二回想録。
  10.  “ケインズ全集第XXX巻 “BIBLIOGRAPHY AND INDEX”の PAMPHLETSの項に従った。――4.の“LAISSE-FAIRE AND COMMUNISM”や9.の“TWO MEMORY: DR. MELCHIOR” も含まれているが、ページ数が多くて、とてもパンフレットと思えないのだが。
     5.と9.以外は『説得論集』に再録されている。

     ケインズは、多くのパンフレットを書いた。自ら言う、「経済学の体系書には大きな教育上の価値があるかもしれない。たぶんわれわれは、主要作品として、各世代ごとに一個の体系書を必要とするであろう。けれども経済的事実の一時的な性格や、それだけ切り離されたさいの経済学の原理の内容の空虚さなどを考えると、経済科学の進歩と日常の有用性とは、先駆者や革新者が体系書を避けてパンフレットやモノグラフの方を選ぶことを要求するのではないだろうか。・・・経済学者たちは四つ折り版の栄誉をひとりアダム・スミスだけに任せなければならず、その日の出来事をつかみ取り、パンフレットを風にふきとばし、常に時間の相の下に物を書いて、たとえ不朽の名声に達することがあるにしてもそれは偶然によるものでなければならない。」(大野忠男訳全集『人物評伝』p264)度々引用される箇所である。

     1.~3.の発行所、ホガース社(Horgarth press)は、ケインズのブルムスベリーグループ仲間であったヴァージニア及びレナードのウルフ夫妻が営んだ印刷所。表紙の真ん中に写真では見にくいがウルフ(狼)のマークが付いている。

     そもそも、我がコレクションはケインズの諸著作から始まった。
     所持している内では、1.5.6.が稀覯だと思う。
     上に挙げたケインズ全集30巻の書誌によると、初期の3種が欠けている。
      
    写真上:左から上記パンフレットの1.2.3.5.6の順
    写真下:左から上記パンフレットの4.7.8.9.の順

0 件のコメント:

コメントを投稿