ハンロンの剃刀
ハンロンの剃刀(ハンロンのかみそり、英: Hanlon's razor)とは、次の文で表現される考え方のことである。
例えば、ある製品に欠陥が見つかった場合、(大抵の場合、一般論としては)それは製造した企業が無能であるか愚かであるということを示しているのであって、消費者を困らせるために企業が悪意を持って欠陥を忍ばせたわけではない、という考え方を示すのに用いられる。
上記の文言それ自体は、20世紀のペンシルベニア州に住むロバート・J・ハンロン (Robert J. Hanlon) という人の発言に由来するもの、とその友人などによって主張されたが、こうした考え方や類似の警句は、それよりはるか以前から存在していたことが知られている。
起源とされるもの
冒頭の引用文自体に関する主張
ロバート・J・ハンロンの友人ジョセフ・ビグラー (Joseph Bigler) の説明によると、冒頭に挙げられた「ハンロンの剃刀」自体は、1980年に刊行されマーフィーの法則に関連したさまざまなジョークを集めた書籍Murphy's Law Book Two, More Reasons Why Things Go Wrong (ISBN 0-417-06450-0)[注 2]に対して、ロバート・J・ハンロンが寄せた意見に由来している、とのことである[注 3]。ロバート・J・ハンロンはペンシルバニア州スクラントン在住の無名の人物である。
この文に与えられた「ハンロンの剃刀」という呼称は、オッカムの剃刀からインスピレーションを得たものである[1]。
起源、あるいは類似する古い警句
「ハンロンの剃刀」の考え方というのは、必ずしもロバート・ハンロンのオリジナルというわけではなく、以前から類似の表現や考え方は存在していた。
たとえばロバート・A・ハインラインの1941年の短編作品『金星植民地(英語版)』(短編集『地球の緑の丘』収録)にも類似の表現が見られる。次のような文である。
You have attributed conditions to villainy that simply result from stupidity.
君は単に愚かさから生じる状況を悪行のせいにした。
これが存在することは、1996年に指摘されており(それはビグラーが「ハンロンの引用句だ」と確認(主張)するよりも5年も前のことである)、ジャーゴンファイルのバージョン4.0.0にてはじめて言及され[2]、「ハンロンの剃刀」は次の「ハインラインの剃刀 (Heinlein's Razor)」を変形したものではないか、と指摘された。
Never attribute to malice that which can be adequately explained by stupidity, but don't rule out malice.
無能で十分に説明できることに悪意を見出してはならない、しかし、悪意を除外してはならない。(※注)
- ※注:ただし、この引用句はアルベルト・アインシュタインのものであると、ピーター・シンガーが2009年に出版した書籍Wired for War (ISBN 1594201986) のp.434には記述されている。
同様の表現をナポレオン・ボナパルト(1769 - 1821)がしたと誤って引用されることがある[3]。
また、ゲーテの『若きウェルテルの悩み』(1774年)にも類似した表現がすでに用いられていた。
...misunderstandings and neglect create more confusion in this world than trickery and malice. At any rate, the last two are certainly much less frequent.
参考訳:(前略)この世界において、誤解や怠慢は、策略や悪意よりも、より多くの混乱を生む。いずれにせよ、後者は(前者に比べれば)ずっと少ない、ということは確かだ。
最近の別表現
最近作られたものでは、次のような表現もある。サー・バーナード・インガム(英語版)によるもので、"cock-up before conspiracy"(「陰謀論より失敗論」)という呼称がつけられている。
Many journalists have fallen for the conspiracy theory of government. I do assure you that they would produce more accurate work if they adhered to the cock-up theory.
—Sir Bernard Ingham[4]normal
—サー・バーナード・インガムnormal
脚注
注釈
- 他の翻訳例:愚かさによって十分に説明できるものを悪意のせいにしてはならない。
- あえてこの書名を翻訳すると次のようになる。『マーフィーの法則第二巻、物事が間違った方向に進む多くの理由』(実際には和訳本は存在しない)
- クエンティン・スタッフォード=フレイザー(英語版)への電子メールの中で、ジョセフ・E・ビグラーは、ロバート・J・ハンロンは実在の人物であり、彼はこの引用句を本当に生み出したと書いている。これに続くフォローアップ・メールで、Murphy's Law Book Two, Wrong Reasons Why Things Go More (ISBN 0-417-06450-0) をMurphy's Law #2(『マーフィーの法則 第二巻』、ISBN 0-8431-0674-3)と混同しないよう言及している。これら書籍を出版したプライス・スターン・スローン(英語版)は1993年、パトナム・バークレー・グループ (Putnam Berkley Group) により買収された(詳細は、ペンギン・グループの社歴を参照)。
出典
- Giancarlo Livraghi, Il potere della stupidita (The Power of Stupidity), Monti & Ambrosini, Pescara, Italy, 2004, p. 1
- Hanlon's Razor The Jargon File
- "Napoleon Misquoted - Ten Famous Things Bonaparte Never Actually Said". MilitaryHistoryNow.com (2014年7月14日). 2019年4月12日閲覧。normal
- Galvin, Nick (2009年9月1日). "Case of a misplaced point". Brisbane Times 2010年7月17日閲覧。normal
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