- 2017年3月7日に日本でレビュー済み発売からもう五年以上も経つのに誰もレビューを書かない、とても不遇な扱いをされている、河出文庫「ベンヤミン・アンソロジー」ですが、実は大変に優れた編集によってつくられた最高のベンヤミン入門書です。まず収録された十編のベンヤミン著作の選択が優れています。この一冊だけでベンヤミンの初期著作「言語一般について また人間の言語について」から晩年の遺作「歴史の概念について」まで、ベンヤミンの思想を概観できるように構成されており、ベンヤミン入門者にとっては安心して購入できる入門書といえます。ただ、ベンヤミンの代名詞ともいえる「複製芸術時代」に関する論文については、本書はベンヤミンの盟友アドルノのいちゃもんによって極限まで短くされた「第三稿」原稿が収録されており、これまで岩波文庫やちくま学芸文庫で読みなれてきた読者には物足りないかもしれません。しかしながら、この収録の選択も編者によれば、現在の海外における主要なベンヤミン研究で最も参照されるのが「第三稿」であるという事実と、これまでこの「第三稿」があまり紹介されてこなかったということから、あえて収録したというのであれば納得もいくものです(ハンナ・アーレントも激怒したアドルノのあたまでっかちなちゃちゃにはうんざりですが、簡潔な「第三稿」はほかの原稿と比べても大変に勉強になる論考です)。ベンヤミンの叶わなかった恋の記憶を残したエッセイ「摸倣の能力について」も収録されており、ベンヤミンの多様な思想と魅力的な生涯が読者にわかりやすく示されている、ベンヤミン入門書として最高の一冊です。
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