ヘブライ語読解の基本とツール活用法
はじめに
この記事はヘブライ語聖書の読解を始めるにあたっての道のりの説明と、それにまつわるツールの活用方法の説明です。初級文法に入門した、あるいは終えたくらいの人を読者に想定しています。本文中に知らない用語が出てきたら初級文法の教科書で調べてください。
外国語の勉強ってどうやったらいいの?という人もそれなりにいると思うのでかなり丁寧に説明していきたいと思います。
本文を用意する
ヘブライ語本文を用意してください。慣れてきたらそこに色々書き込んでいきますが、慣れないうちはノートに書き写しましょう。行間に書き込むために数行空けて書き写していくのがセオリーです。全部書くまでもないな、という段階になったらコピーした本文をノートに貼り付けるのもいいでしょう。
もし、初級文法の練習問題にあたる文章の読解でも、腰を据えて考えるときはこのようにしてみてください。
単語を辞書で引く
とにかく知らない単語は辞書を引きます。最初のうちは全ての単語を辞書で引くことになります。辞書を引かないで済むかなとか思わない方が後々楽になるというのが個人的な感想です。もちろん初級文法の本には簡単な語義が載っていて、しばらくは辞書を引かないで問題を解くことができるでしょう。しかし初級文法の本が辞書の代わりにはなりません。そのうちどうせ引くことになります。面倒だと思う必要はありません。辞書を引くのが楽しい作業だと思えるようになるのがいいと思います。
見出し語形が分からない
辞書に載っている形を、単語の「見出し語形」「辞書形」などと呼ぶことがあります。実際の文章に現れるのは変化した後の形なので、そのまま辞書を引いても見つからないのはよくあることです。さらにヘブライ語の場合、その単語がアレフベート順ではなく、語根の順番に載っている場合もあります。持っている辞書の最初の方の解説を読みましょう。
いくつかの方法があります。
1. 文法書を読んで元の形が分かるまで調べる
王道です。時間はかかりますが勉強になります。時間がある時はこうした方がいいです。
2. 文法解析ツールを使う
機械的に元の単語を知る方法もあります。例えば
これなど出てきた形で元の単語を調べられます。
あるいはアプリケーションを購入します。有名なところではAccordance Bible SoftwareやLogosなどがあります。しかし結構お値段が張ります。
無料で調べられるところで言うと、
こちらが便利です。例えば"בא"というヘブライ語がなんなのか調べましょう。
ヘブライ語をそれぞれの端末で入力する仕方は頑張ってググってください。"Apply Nikud"を押すと、
はい、母音記号がつきました。単語をクリックすると"Nikud Options"が開きます。
今回は"בָּא"の変化が知りたいのでこれでOKです。"Morphological details"を押します。
はい、可能性が色々出てきました。
בוא, פעל, זכר, יחיד, הווה
(語根はבוא、パアル態、男性、単数、現在形、と書いてあります)
בוא, פעל, זכר, יחיד, גוף שלישי, עבר
(語根はבוא、パアル態、男性、単数、三人称、過去形、と書いてあります)
ヘブライ語で文法用語言われても分からないですよね? これも辞書で引きましょう!と言ってもいいのですがあまり初学者に辛い思いをさせても仕方ないので、めぼしいところを一覧表にしておきましょう。
שם עצם(名詞)
שם מספר(数詞)
תואר השם(名詞の修飾=形容詞)
תואר הפועל(動詞の修飾=副詞)
מילת יחס(前置詞)
מילת חיבור(接続詞)
מילת שאלה(疑問詞)
כנוי(代名詞)
נסמך(連語形)
זכר(男性)
נקבה(女性)
יחיד(単数)
רבים(複数)
זוגי(双数)
גוף רישון(一人称)
גוף שני(二人称)
גוף שלישי(三人称)
עתיד(未来)
הווה(現在)
בינוני(分詞)
עבר(過去)
ציווי(命令)
מקור(不定詞)
תחילית(接頭語)
בסיס(基礎、この場合は本体になる単語のこと)
סיומת(接尾辞)
כנוי מושא(目的語を示す代名詞)
סופית קניין(所有語尾)
品詞が何か調べる
すでに上にも出てきましたが、その単語が文の中でどういう役割を持っているか(品詞)を考える必要があります。辞書を引けばすぐに副詞だ、と分かる場合もありますが、たいていの場合他の要素と絡め合わせて決定されるものです。
可能性を列挙する
品詞や意味は辞書を引いても文法解析ツールを使っても一意にすぐ決定されるものではありません。文の構成に慣れてきてだんだんわかっていくものです。慣れないうちは絞りきれない可能性についてノートに全て列挙しておきましょう。人に質問したり後で自分で見返す時にもその方が役に立ちます。文の最後の単語を引く頃には決定できることもしばしばあります。今の自分にだけ頼る必要はありません。後の自分や他人、資料によって学習を進めましょう。
文法解析ツールは諸刃の剣
通常、単語をみてその品詞を調べたり辞書形を予想したりするのは自分自身だけでできるようにならなければなりません。もちろん学習途中ですから、正解を教えてもらうことは大事です。しかし、いつかはできるようになりたいわけです。
譬え話をしましょう。あなたは数学の問題を解いています。問題集の答えを写せば、詳しい道筋が載っているので解答を書くことができます。宿題は終わります。しかし、あなたは問題を解けるようになっていません。おそらくテストにその問題が出たらあなたは解くことができないでしょう。
おそらく、文法解析ツールをいつも参照する癖がついていると、いつまでたっても自分で辞書形を想像することができません。やるべきことは、たとえ解析ツールを多用することになっても、使う前に自分で予想を立て、答えを見たらどうしてそうなるのか理由を考えることです。傍目にはこの二つはほとんど変わりませんが、後々に響いてきます。かく言う私もAccordance Bible Softwareを使うようになってから活用表の覚え具合が鈍りました。できれば使わない方がいいのです。そのことを忘れないようにしましょう。
文法事項を調べる
ある文があって、その中の単語の意味が全て分かったとします。それぞれの品詞も限定できています。それでもその文の意味を取れない場合、何か文法事項が抜けています。雰囲気で訳してしまうことができるかもしれません。しかし、基本的にはどうしてそう訳すことができるのか、文法書の項目を探して根拠を持っておきましょう。
和訳する必要はあるか
ひとつひとつの文の和訳を書いていくのは学習の最初には必要なステップだと思います。しかし何百という文を前にして本当に全ての訳文を考える必要があるでしょうか。ヘブライ語の文の意味をとれることと、練習問題の答えとして和訳文を書けること、あるいは日本語として正確な翻訳文が書けることは微妙に必要なスキルが違います。それに長文になればなるほど簡単な文はわざわざ和訳する必要がありません。
もう少し言うと、例えば創世記一書全てを翻訳するということになると、訳語の統一、ある文法事項をどう訳すことにするか、物語の流れに対応した日本語は何かなど明らかに一文の読解の範囲を超えた要素が出てきます。これはこれで面白いですし磨くべきスキルかもしれませんが、自分が今何を目的として和訳をしたいのか考えてみるのがいいと思います。
大雑把に言えば、一文ずつの和訳は初級文法の練習問題の答えとして必要でしょう。慣れてきた後は長文読解で簡単な文の訳を省略してもいいと思います。長文の翻訳には全体を統合するスキルが必要になるでしょう。
おわりに
以上、ヘブライ語の学習を始めたばかりの人に向けて読解のやり方を紹介しました。私の意見を絶対視する必要はありません。ぜひ自分に合ったやり方を見つけてください。
ヘブライ語で聖書を読もうとする全ての人を応援します。
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