2021年5月14日金曜日

量子消しゴム実験 - Physics Lab. 2021

量子消しゴム実験 - Physics Lab. 2021

光の粒子性、波動性

はじめに

量子力学の世界では、粒子性と波動性の二重性があります。光の粒子性、波動性については古くニュートンの時代から議論になっていました。波動性は光の干渉などを上手く説明し、一方で粒子性は反射などの現象を簡単に説明しました。光が粒子なのか、波動なのかという議論は、量子力学においては両方の性質を持つという形で終結します。これは光に限った話ではなく、すべての物質が粒子性と波動性を持つのです。本記事では光の「粒」、光子について話を進めていきます。

まず、光の二重スリット実験[1]を考えましょう。これは高校物理でもおなじみの実験かと思います。光は二重スリットを通って、背後にあるスクリーンに到達します。二つのスリットからスクリーンまでの光路差により、それぞれのスリットを通ってきた光の位相がずれ、スクリーン上で強め合ったり弱め合ったりして干渉縞を残します。

1
:二重スリット。位相差により強め合いや弱め合いが起こり干渉縞ができる。

次に、光子を一粒一粒撃ち出す装置(光子銃)を考えます。光子銃を二重スリットに向け、光子を撃ちます。一粒の光子を撃ち出したとき、この光子は二重スリットのどちらかを通りスクリーンに到達し、一点の痕を残します。次々に光子銃を撃つと、スクリーン上には痕が次々に残っていきます。これを十分多い回数繰り返すとスクリーン上にはどのような痕が残るでしょうか。実は、最初に考えた光の二重スリット実験のように、スクリーン上には濃淡のある痕が残ります。つまり、スクリーン上には光子が到達しやすい位置と到達しにくい位置というものが存在します。これは光子の波動性に起因する現象です。一粒の光子が波として二重スリットを通過し、自分自身と干渉を起こした結果このような干渉縞を起こします。

ところで、いま光子が二重スリットのどちらを通ってスクリーンに達したのかということは分かりません(観測していません)。それでは、どちらのスリットを通ってきたのかを観測したとき、スクリーン上の縞模様はどのようになるのでしょうか。実は、どちらのスリットを通ってきたかを観測すると、干渉縞は消えます。どちらのスリットを通ったかを観測することで光子は波動性を失い粒子としてふるまうようになり、結果として干渉は起こらなくなるのです。このように、波動性と粒子性はどちらかを確定させるともう一方の性質が失われるという性質(相補性)を持ちます。

最後に、二重スリットのどちらのスリットを通ってきたかを観測したうえで、スクリーンの手前で再びどちらの経路を通ってきたかを分からなくする操作を行うことにしましょう。すると、やはり干渉縞は復活します。このように、光子一粒一粒を撃ち込んでスクリーンに干渉縞が発生するのは、スクリーンまでの経路の情報が分からないときであると言えます。最後の実験で干渉縞が復活したのは、スクリーン手前で経路についての情報を消去(量子消去)したからです。

2
:光の粒子性と波動性

お手軽量子消しゴム実験

量子消去の実験を実際にやってみましょう。用意するのは、レーザーポインタ、シャーペンの芯、偏光板(特定の方向の成分の光のみを取り出す装置)だけ。しかし、ここで注意をしておきます。ここで述べる「お手軽量子消しゴム実験」は量子力学は必要なく、古典的な考え方で説明できてしまいます。したがって、純粋な量子力学の実験ではなく、あくまで「量子風」実験です。きちんと量子力学の実験をするのであれば光子一つ一つを用いる必要があり、そのためにはしっかりとした光学系を準備する必要があります。これはまったくもって「お手軽」ではなくなってしまいます。量子風実験で量子っぽさを少し感じてみましょう。

まず、レーザー光をシャーペンの芯に当ててスクリーンに当てます。スクリーン上の模様はどうなっているでしょうか。このとき、干渉が起こるのでスクリーン上には干渉縞ができます

3
:(左)レーザー光をシャーペンの芯に向けて照射している様子。

(右)レーザー光をシャーペンの芯に当てたときのスクリーン上の様子。干渉縞が確認できる。

次に、シャーペンの芯の両側に偏光板を右と左で向きが

90
度ずれるように貼り付けます。これで、針金の両側にそれぞれ
0
偏光の光と
90
偏光の光ができます。この装置に向かって針金部分に光が当たるようにレーザー光を当てると、スクリーン上の模様はどうなるでしょうか。このとき、シャーペンの芯の左右から出てくる光の振動方向は直交していて干渉を起こしません。したがって、スクリーン上には縞模様はできません

では、この後ろに

45
度傾けて偏光板を設置するとどうなるでしょうか。このとき、経路情報は消去され干渉縞が復活します。これが量子消去(風なもの)です。

4
:量子消去が起こらないときと起こるとき。スクリーン手前に
45
偏光板があるかないかで決まる。

5
:(左)量子消去をしない、つまりスクリーン手前に
45
偏光板がない場合。スクリーン上に干渉縞は見えない。

(右)量子消去をする、つまりスクリーン手前に

45
偏光板がある場合。スクリーン上に干渉縞が復活する。

説明

光の偏光成分の分解を考えます。上のお手軽量子消しゴム実験では、シャーペンの芯の右側と左側に

90
度ずらして偏光板を貼ったものを用いました。こうすることで、シャーペンの芯の両側にそれぞれ
0
偏光と
90
偏光が作ることができます。これら
0
偏光と
90
偏光は直交しているので、どちらの経路を通ってきたのか完全に区別することが可能です。ここで、図
6
を見ると分かる通り、
0
偏光と
90
偏光の光を
45
方向と
45
方向に分解すると、ともに
45
偏光成分を持つことが分かります。上の実験では、経路情報を消すために
45
偏光板を用いました。この偏光板は
45
偏光の光しか通しません。したがって、スクリーン手前に
45
偏光板を置くと、スクリーンに到達する光は
45
偏光のみとなり、スクリーン上で干渉縞が復活します。これは、
0
偏光と
90
偏光で完全に区別できていたものが区別できなくなった(経路情報が消えた)と言うことができます。

6
:緑色が
0
偏光、黄色が
90
偏光を表す。これらを
45,45
方向に分解することを考えると、ともに
45
方向に成分を持つことがわかる。

以上の説明は完全に古典論であり、量子力学の話ではありません。しかし、お手軽量子消しゴム実験の結果と量子力学の世界での結果は、(説明の方法が全く違いますが)同様なものです。このように、お手軽量子消しゴム実験は量子の世界を体感できる実験と言えます。

おわりに

ここで紹介した量子消しゴム実験[2]は、量子力学の世界における

1
粒子の問題でした。
2
粒子の場合を考え、量子消去に加え「遅延選択」という現象も含めた実験もあります。この実験やさらに量子情報(量子テレポーテーション)までを概説した記事を解説PDFとしてまとめましたので、興味のある方は是非こちらもあわせてご覧ください。[3]

参考文献

[1] 日経サイエンス編集部 (2008), 「別冊日経サイエンス161 不思議な量子をあやつる」, 東京:日経サイエンス

[2] 和田純夫 (2020), 「量子力学の解釈問題 多世界解釈を中心として (SGCライブラリ 161)」, 東京:サイエンス社


  1. 電子の二重スリット実験の動画もありますので、興味のある方はあわせてご覧ください。 ↩︎

  2. これは「お手軽」ではなく、きちんと量子的に行った量子消しゴム実験を指しています。 ↩︎

  3. 本記事中の図の画像の一部はいらすとやより引用しました。 ↩︎

NAMs出版プロジェクト: 康有為『大同書』(と井上圓了):メモ 転載

NAMs出版プロジェクト: 康有為『大同書』(と井上圓了):メモ
472 考える名無しさん[sage] 2021/05/18(火) 00:49:45.27 ID:0 
戎棋夷説 @pascal_api
2m

「柄谷行人発言集対話篇」丸川哲史に言う。毛沢東は自身を始皇帝になぞらえていた、
すると、鄧小平は竇太后みたいなもので、「この次は武帝のようになるだろう」。
習近平を予言してる、とすれば、これは当たったな。814頁



NAMs出版プロジェクト: 康有為『大同書』(と井上圓了):メモ
http://nam-students.blogspot.com/2014/03/blog-post_14.html
       (リンク::::::::::柄谷行人中国文明本頁

章炳麟(康有為の論敵)
康有為 清末の政治家、学者。 公羊学派の儒者として知られ科挙に合格、官吏となる。 日清戦争の敗北、列強による中国分割という危機に直面し、1898年光緒帝に日本の明治維新を模範とした改革を提言、採用されて戊戌の変法を指導した。
常平倉1912
https://freeassociations2020.blogspot.com/2020/05/1912.html
ケインズと論語
https://freeassociations2020.blogspot.com/2020/06/1912-httpsfreeassociations2020.html

ーー

<…中国で、私の『世界史の構造』を読んだ人から、康有為の「大道世界」
に似ていると言われました。実は、それで急に興味を抱いたのです(笑)。
康有為は将来的に国家や民族が消滅するという理念をもっていた。孔子
から引き出した理念ですね。これはカント的な意味で「統整的理念」
であり、現実には、漸進主義的であった。まず清朝を立憲君主制にして、
そののちに君主を排していくという道筋を描いたわけですね。そこから
漸進的に大道世界へ向かう、という。これは清朝という帝国を生かそう
という考えだったと思います。>

柄谷行人×丸川哲史「帝国・儒教・東アジア」『現代思想』2014.03、42頁

_____

参考:
【論文】 井上円了著作の中国語訳及び近代中国の思想啓蒙に対する影響 李立業 
http://www.toyo.ac.jp/uploaded/attachment/117398.pdf


~~~~~~~~~~~~~
康有為(Kang Youwei。1858~1927年)
大同書 - Chinese Text Project Wiki
http://ctext.org/wiki.pl?if=en&res=306261

http://baike.baidu.com/view/43031.htm?fromtitle=%E3%80%8A%E5%A4%A7%E5%90%8C%E4%B9%A6%E3%80%8B&fromid=789438&type=syn
《大同书》全书共30卷,约20万字,分为10部,
甲部《入世界观众苦》,
乙部《去国界合大地》,
丙部《去级界平民族》,
丁部《去种界同人类》,
戊部《去形界保独立》,
己部《去家界为天民》,
庚部《去产界公生业》,
辛部《去乱界治太平》,
壬部《去类界爱众生》,
癸部《去苦界至极乐》。
http://www.shachi.co.jp/jaas/10-01/10-01-01.pdf
http://d.hatena.ne.jp/name727/20081106/1225985218
0)世界に入って衆苦を観ず(否定すべき世界は九界に分かれるが、以降はそれら九項目に対置された九つのユートピア描写に移る)。
1) 国界を去って大地を合す(国境があるために戦争が起こる)。
2) 級界を去って民族を平らにす(身分差別を撤廃する)。
3) 種界を去って人類同じくす(人種差別を無くすために異人種同士を交配させ、一つの人種を作り上げる)。
4) 形界を去って独立を保つ(男女差別の撤退)。
5) 家界を去って天民となる(家族制度の撤廃)。
6) 産界を去って生行を公にす(私有財産制度の撤廃)。
7) 乱界を去って太平を治む(大同世界における具体的な行政制度の説明)。
8) 類界を去って衆生を愛す(殺生の禁止)
9) 苦界を去って極楽に至る(神仏の学が興り、人類は地球を出て、他の星に遊ぶことが可能になる)。




http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BA%B7%E6%9C%89%E7%82%BA
大同三世説と『大同書』

上記の思想的特徴が化学反応して形成されたのが、康有為の代表的な思想、大同三世説である。大同三世説とは端的に言えば、歴史が「拠乱世」(野蛮な世の中)から順次発展して「升平世」へ、そして最後に「太平世」という理想社会に至ると説く歴史発展理論である。これは『礼記』礼運篇の小康・大同という理想社会観に、董仲舒や清代の今文公羊学者たちの唱える三世説を組み合わせ、さらに西欧の社会進化論やユートピア思想をも取り込み成立した思想である。

この思想は、まず発展史観をとっていることが特徴となっている。それまでの中国の伝統的歴史観は三代を理想としこの時代に立ち返ることを求める尚古史観か、あるいは治と乱が交互に循環するとした循環史観であった。時代を経るにつれ理想社会に近づくとする康有為の考えは全く新しいスタイルの歴史観であった。次に理想とされる社会「大同」は以下のような特徴を持つ。まず全人類が男女・民族・人種に関係なく自由平等となる。政治的には世界が統一された上、共和政体をとり、民主的選挙で選ばれた議員の合議制で運営される。経済的には全く不自由のない生活を営め、そして自動運転の車や船が活躍する。またあらゆる境界概念が消滅する。すなわち家族や国境という個々人を束縛するものは消滅し、婚姻もなくなる。このようにプリミティブな共産思想に未来技術を加味したような社会が「大同」とされた。

ただ、康有為の思想には社会進化論も強い影響もみられ、人種差別思想もみられる。たとえば黒人を劣等種と断定し、いずれ死滅するだろうとも述べていた。したがって康有為のいう理想の大同世界が、万人にとって理想であったとはいえない。

康有為は自身の生きる清末は未だ「拠乱世」であって、次の「升平世」へと進化するためには立憲君主制を取る必要があると認識していた。共和政体を取るフランスやアメリカはすでに「升平世」の中頃まで進んだ社会と考えていたようだ。康有為の立憲君主制への執念は、こうした発展史観に裏打ちされたものであった。しかしそれが強固であればあるほどフレキシビリティを欠き、辛亥革命が成就し皇帝という存在がなくなっても立憲君主制という理想を捨てきることができなかったのである。

さてこの大同三世説を詳述した書物こそ『大同書』である。しかし康有為の代表作とされながらも、それが生前に完全な形で刊行されることはなかった。このことが大同三世説を康有為がいつ着想を得たのか、という問題を惹起した。『大同書』はそのあまりに時代離れした内容から、康有為自身が公開をためらい刊行しようとしなかった。生前にはその一部が 1913年に冒頭の二章が『不忍雑誌』に掲載されたのみで、ようやく全体が刊行されたのは、死後の1935年になってからである。『我史』(『康有為自編年譜』)には、1884年に「『大同書』を著した」とあるが、『大同書』の記述内容や使用されている語彙から考えて、これはあり得ない。通説では1901年から翌年の間までにほぼ形が固まり、その後も小さい訂正・追加がなされたとなっている。




http://www.ritouki-aichi.com/chido_chugoku_235.html

             『大同書』(康有為 華夏出版社 2002年)

 著者の康有為(1859年から1927年)は、19世紀末から20世紀初頭に至る清朝末期における中国の政治と学問の世界で極めて大きな影響力を持ったことで知られる。政治の世界では一種の宮廷革命を画策。清朝帝室から保守派を一掃し、開明的な光緒帝を戴く近代的な政治体制の確立を目指した。だが、康を頂点とする保皇派による変法自疆と呼ばれる改革運動は西太后を中核とする保守派の頑迷固陋な堡塁を突破できずに失敗し、彼は命からがら日本に逃げ延びることになる。既得権益を守ろうとする保守派を甘く見すぎたということだろう。一方、学問の世界では「現代の孔子」と称されるほどの存在であり、『新学偽経考』『孔子改制考』などを著し、儒教の学統において大きな足跡を残した。

 この本は、そんな康が長い歳月を掛けて書き上げたものだが、現在の中国の学界では、一般的に「この本は、主権独立国家から半植民地・半封建社会へと堕ち込んでゆく特殊な歴史の歩みの中で、伝統儒学と西欧近代の思潮とを結合させ格闘する著者の思考を反映したものである」(陳得媛・李伝印「《大同書》評介」)と評価されている。

 清末の大学者たる著者は、いずれ将来、人類は民族・国家・性別・貧富・職業などの違いを超越し、心穏やかで対立も苦しみも痛みもない快適至極の極楽のようなユートピアに立ち至る――なんとも夢のような、見方によったらノー天気なゴ託宣を語ってくれる。

まあ、じつに有り難く夢のようなゴ高説だが、どうすれば実現可能なのか。はたまた「伝統儒学と西欧近代の思潮とを結合させ格闘する著者の思考を反映したものである」とまで持ち上げていいものかどうか。首を傾げたくなる。率直にいわせてもらえば学者の"暇つぶし"。とはいうものの、この本を儒教的ユートピア世界を描き出したものと見做すなら、それはそれで儒教に対する考えも"衝撃的"に変わろうというものだ。

たとえば「去家界為天民」と書かれた一章では、「家界」というから家族の縛りとでも訳せばいいのだろうか。いずれ人は家界を抜け出て「天民」になると説く。この章の最終部分の「考終院」の項をみると、未来社会では死もまた平等に公的管理されるようだ。人は死んだら考終院という役所に届け、遺体は帛で包むなり棺に納めるなりして考終院に安置する。考終院にはお別れのための一切の設備が整えてあり、葬儀の次第は死者の社会的地位や年齢によって事細かに規定されている。ここで興味深いのが死体処理方法だ。

 孔子の弟子であることを自任する著者は孔子の考えに従って、「人の生気」は「魂知」に在り「体魄骨肉(にくたい)の中には在らず」とする。だから遺体は土葬でも火葬でもかまわないのだが、さすがに火葬は残酷で見るに忍びないと綴る。とはいうものの一転して、将来のハイテク科学技術を思い描く。千数百年後の「大同の世」になったらハイテク装置が完成する。それが熱風を起こしゴーッと唸りをあげた途端、「形骸骨肉(にくたい)」は消えてなくなってしまう。かくて「上(こころ)」は虚無の世界に還り、「下(いはい)」は山や谷に撒かれ時の流れの中で消えて行く、という。よくまあ、そこまで考えるものだ。

 康が心血を注いで著した『大同書』と聞くと、さぞや難解な本のようだが、儒教的ユートピアを描いた"謹厳実直な未来小説"といったところ。ともあれユートピアでも死体処理に目配りが必要なほど、中国は膨大な人口に悩まされ続ける運命にあるのです。
~~~~~~~~~~

SF的部分には井上円了(『星界想遊記』哲学書院1890)の影響があるという(『大同書』明徳出版、注より)。

参考:

井上円了に関してはカントの影響を受けており、柄谷行人も『遊動論』(52,74頁)や書評↓で触れている。

妖怪学の祖 井上圓了 [著]菊地章太 - 柄谷行人(哲学者) - 書評
http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2013031000005.html?guid=on


星界想遊記 - 井上円了 - Google ブックス
http://books.google.co.jp/books?id=XP0zmMO9LUEC










南船北馬集 第三編
http://www.ircp.jp/enryo_senshu/text/INOUE12/12-04_nansenhokubashu03.txt
P550
 哲学堂の由来  
 哲学堂は今より五年前、すなわち明治三十七年、哲学館の大学公称を文部省より許可せられたる紀念として一棟を建設したるに始まり、同三十九年一月、余が同大学を他人に一任し、これを己の退隠所と定めたるに起因すといえども、哲学堂中に奉崇せる四聖の由来につきては、遠く明治十八年に画工渡辺文三郎氏をして四聖の像をえがかしめ、中村敬宇先生に画賛を請い、学友四、五輩を招きて哲学祭を挙行せしに始まる。その画賛は左のごとし。     

 四聖像賛 文学博士 中村正直   
孔釈之教拯溺救焚、
若微二聖人禽奚分、
欧洲之哲尤推瑣韓、
知大宗師固道徳根、
弱肉強食今尚不已、
卓美之世何時可待、
炳燭余光嗟我老矣、
継往開来望在俊士、

(孔子と釈迦の教えは人々を溺れたり焚かれたりする境地より救う。
もしこの二聖人がおられなかったならば、人類と鳥類のごとき動物とどのように区別しようか。
ヨーロッパの哲学者でもっとも推戴に価するのはソクラテスとカントである。
あおがれる師匠はもとより道徳の根本を知っている。
しかし、弱肉強食のありようは今もなおやむことなく、
すぐれた美しい世はいったいいつまで待つべきなのであろう。
かがやくともしびのあまりの光にわが老いたるをなげき、
過去を引き継ぎ未来を開く望みは才知すぐれた人にあるのである。)


四聖堂
[木造平屋建・方形・桟瓦葺・一重]
本堂に東洋哲学の孔子と釈迦、西洋哲学のソクラテスとカントの「四聖」を世界的四哲人として祀るために建立されました。
哲学の将来的発展を祈念し哲学祭を開催した圓了の意図が具現化された建物です。三間四面の小堂で四面とも正面。中央には哲学の起点、基礎となる二つの象徴として、心即ち精神は円形で光るものとして電球、物即ち物質は心を汚すものとして香炉がおかれています。これは、心が物欲で汚されても修養を積めば清浄な心は失われないことを表していて、内部、天井中央に装飾額があり、釈迦涅槃像(和田嘉平作)が堂内に安置してあります。堂内に南無絶対無限尊と刻んだ石柱、唱念塔(しょうねんとう)をおいています。四聖の像(橋本雅邦画)「孔釈瑣韓」の四字額(副島種臣書)があり11月の哲学堂祭に掲額されます。








ちなみに康有為は老子の小国ユートピア観に批判的で高速長距離移動が未来の姿だという。 
http://ctext.org/wiki.pl?if=en&chapter=964583#p147
154
間或智士創新領賞,財富巨盛,亦只自創行屋,放浪於山嶺水涯,而無有為坐屋者矣。蓋太平之世,人好行游,不樂常住,其與古世百里雞狗相聞而老死不相往來,最有智愚之反也。夫草木至愚者,故系而不動,羊豕之愚勝於草木,能動而不能致遠者也,若夫大鵬、黃鵠,一舉千里。古世老死不出鄉者如草、木,中世游行如羊、豕,太平世則如大鵬、黃鵠矣。


NAMs出版プロジェクト: 仏教活論序論:井上円了 転載

NAMs出版プロジェクト: 仏教活論序論:井上円了

仏教活論序論:井上円了

大東出版社

http://www.daitopb.co.jp/7561.html

現代語訳 仏教活論序論[2012,1887]

著者名: 井上円了〔著〕・佐藤 厚〔訳〕

ISBN: 978-4-500-00756-1

判型: 4-6判

体裁: 並製・カバー装

頁数: 188

発行日: 2012年10月30日

在庫:

定価(8%税込): ¥1,620

送料: ¥300


国立国会図書館デジタルコレクション - 仏教活論序論 : 縮刷[要約]

http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/817128

仏教活論 序論 | 井上円了 | 仏教 | Kindleストア | Amazon[完全版]1887

https://www.amazon.co.jp/dp/B016PZ86EU/

   

関連論考:

https://www.toyo.ac.jp/uploaded/attachment/12679.pdf

http://www.toyo.ac.jp/uploaded/attachment/9324.pdf

以下の論文が、西田以前の明治期哲学について詳しい。

「明治期アカデミー哲学の系譜 : 「現象即実在論」をめぐって」

井上克人

http://ci.nii.ac.jp/els/contents110006160420.pdf?id=ART0008128267

船山信一(一九〇七−一九九四)は、『増補明治哲学史研究』(昭和四〇年)のなかで、

西田幾多郎は井上哲次郎(一八五五−一九四四)が初めて提唱した「現象即実在論」の継承者であり、その完成者なのであって、

一定の流れどの中で自らの思想の原点を見出し、それを彫琢することに一生を費やしたと語っている。

ところで、この「現象即実在論」、つまり現実そのままが真の実在であるとする考えは、

遡れば天台本覚思想にその淵源をもつが、明治二〇年代には日本人独自の考え、しかも仏教的な哲学として人々に夙に知れ渡っていた。

とくに、明治期の哲学界に於けるもう一人の鬼才、井上円了(一八五九−一九一九)は明治一九年の「哲学一夕話』以降、

「現象即実在論」と呼べる論文をいくつも発表しており、その影響は無視できない。

じじつこの『哲学一夕話』は西田の若い頃の愛読書の一冊に数えられている。

更に清澤満之の『純正哲学』(明治一、四年)がその後に続くわけであり、

そういった仏教系の哲学者とならんで東京大学の哲学教授の井上哲次郎が、

宗教色を感じさせることなく純哲学理論として、「現象即実在論」を提唱していたのである。

明治一六年に公刊された井上哲次郎の『倫理新説』に於いては、しばしばカント、フィヒテ、シェリング、へーゲルの名が挙がっている。

とは云え、ただ彼らの原理のみが紹介されているに過ぎない。

カントの「物自体」、シェリングの「絶対者」、へーゲルの「理念」は、

荘周の「無々」、列子の「疑独」、釈迦の「如来蔵」と同一系列に置かれて、いずれも「人力の管内」に入り難きものとして説明されている。

ただ注意すべきことは、ここでは、ドイツ観念論の神秘的側面が既に東洋的形而上学と結びつけられ始めているということである。

この点については、井上円了も同様である。彼は『仏教活論序論』(明治二〇年)の中で、仏教の「真如」とへーゲルの絶対者とを同一視している。 

《内容紹介》

近代西洋哲学に見出した真理が仏教の中に存在することを発見し、当時低迷の極みにあった明治仏教に「活」を入れるべく、独り敢然と起ち上がった若き井上円了(いのうえ・えんりょう)。"妖怪博士"ではない"哲学者"井上円了の真骨頂が味わえる近代仏教の名著が、初の現代語訳にて甦る!!

《目次》

第一章 国家と真理 19 

 第一節 護国と愛理 20 

  第一項 護国と愛理 20 

  第二項 国民と学者の義務 21 

  第三項 護国と愛理は、どちらが重いか? 21 

  第四項 護国と愛理は一体である 22 

 第二節 真  理 24 

  第一項 僕は幼い時から真理を求めていた 24 

  第二項 人間の趣向というもの 26 

  第三項 真理とはどのようなものか 26 

  第四項 真理と宗教 27 

  第五項 仏教とキリスト教とを比較する 28 

  第六項 仏教に真理がある 29 

 第三節 僕の思想遍歴 30 

  第一項 僕はお寺で生まれ育った 30 

  第二項 儒学、キリスト教に真理はなかった 31 

  第三項 西洋哲学に真理を発見し、改めて仏教を見ると、西洋哲学の真理と一致していた 32 

第二章 国家と仏教 35 

 第一節 日本で仏教を再興し、世界に輸出せよ 36 

  第一項 今の日本だけが仏教を維持できる 36 

  第二項 日本から世界へ仏教を輸出すべし 37 

  第三項 今の日本で仏教の再興が必要な理由 38 

  第四項 宗教と国民精神および国の独立 39 

  第五項 仏教を西洋に輸出せよ 42 

  第六項 小  結 44 

 第二節 キリスト教は日本のためにならない 45 

  第一項 「キリスト教がすべて」という人がいるが、それはおかしい 45 

  第二項 仏教こそが日本のためになるのだ 46 

  第三項 「仏教は政治社会に利益を与えない」という批判に答える 47 

  第四項 「西洋人と交際する際にはキリスト教徒になるのがよい」という考えは間違っている 48 

  第五項 西洋の模倣は、日本人に対する蔑視を生むだけだ 49 

  第六項 小  結 50 

 第三節 僕が考えるキリストとキリスト教 51 

  第一項 僕はキリストが憎いのではない 51 

  第二項 キリスト教信者は僕の同胞兄弟である 52 

  第三項 キリストは英雄である 52 

  第四項 だが僕は絶対にキリスト教を信じない 54 

  第五項 キリスト教の害毒 55 

  第六項 キリスト教は、人間の知性と社会の発展を阻害する 56 

 第四節 学者才子よ、仏教改良に起て! 57 

  第一項 宗教の改革ができるのは日本だけである 57 

  第二項 日本の僧侶たちでは改革は不可能だ! 58 

  第三項 学者才子よ! 僧侶に代わって仏教を護持せよ! 59 

  第四項 キリスト教の奴隷になるな! 仏教を改良して世界宗教を一変させよ! 60 

  第五項 小  結 61 

 第五節 明治十八年の僕の苦労 63 

第三章 仏教と真理 67 

 第一節 仏教の区分 68 

  第一項 仏教の分類方法─聖道門と浄土門 68 

  第二項 仏教は、哲学と宗教からなる 70 

  第三項 人間は情感と知力の二つの心のはたらきを持ち、仏教は両方を兼ねる 71 

  第四項 小  結 75 

 第二節 仏教の哲学的部分 76 

  第一項 近世西洋哲学の発展の構図と釈迦の中道 77 

  第二項 仏教宗派と西洋哲学との対応 83 

  第三項 因果の規則は科学と一致する 109 

 第三節 仏教の宗教的部分 116 

  第一項 仏教各宗の安心にいたる方法 117 

  第二項 仏教の説く幸福の意味 118 

  第三項 仏教でいう幸福は多くの人の幸福である 118 

  第四項 仏教の目的 119 

 第四節 釈迦の意図とは? 方便と中道との関係 120 

  第一項 釈迦の本意は何か? 120 

  第二項 釈迦の説教の順序の意味 121 

  第三項 釈迦の説教は中道が目的である 122 

  第四項 平等と差別との関係を再説する 123 

  第五項 人間の思想発達の順序について 125 

  第六項 横浜─サンフランシスコ行きの船の例で、中道と方便とを説明する 128 

  第七項 人間が邪道に走るから方便は必要なのである 130 

  第八項 釈迦は出世間だけを説いたのではなかった 132 

  第九項 釈迦は肉食妻帯を禁止したのではない 133 

  第十項 釈迦の教説はすべて中道に基づく 134 

  第十一項 仏教が多くの宗派に分かれたのも中道が関係する 135 

  第十二項 小  結 136 

結 論 137 

訳  註 143 

付  録 175

厚労省 #医系技官 の犯罪3

厚労省 #医系技官 の犯罪3




2020年10月東京新聞の記事で紹介された文書を厚労省の誰が誰の指示で作成したのか経緯を知りたい。

医務技官の鈴木はフライデー2021年9月11日号によるとゴルフ三昧。

「PCRが受けられない」訴えの裏で… 厚労省は抑制に奔走していた 東京新聞

厚生労働省が説明に使ったとされる内部文書。民間団体による調査報告書に掲載されている

 「PCR検査は誤判定がある。検査しすぎれば陰性なのに入院する人が増え、医療崩壊の危険がある」―。新型コロナウイルスの感染が拡大していた5月、厚生労働省はPCR検査拡大に否定的な内部資料を作成し、政府中枢に説明していたことが、民間団体の調査で判明した。国民が検査拡大を求め、政権が「件数を増やす」と繰り返していた時期、当の厚労省は検査抑制に奔走していた。

 厚労省の資料は「不安解消のために、希望者に広く検査を受けられるようにすべきとの主張について」と題した3ページの文書。コロナ対策で政府関係者への聞き取りをしたシンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ」(船橋洋一理事長)が8日公表の報告書に載せた。

◆厚労省「PCRは誤判定が出やすい」

 文書では「PCR検査で正確に判定できるのは陽性者が70%、陰性者は99%で、誤判定が出やすい」と説明。仮に人口100万人の都市で1000人の感染者がいるとして、全員に検査した場合、感染者1000人のうち300人は「陰性」と誤判定され、そのまま日常生活を送ることになる。一方、実際は陰性の99万9000人のうち1%の9990人は「陽性」と誤判定され、医療機関に殺到するため「医療崩壊の危険がある」とする。

 これに対し、医師や保健所が本人の症状などで「検査が必要」と判断した1万人だけに絞ると、「陽性」と誤判定されるのは100分の1に減る。

 ただ、この厚労省の理屈は、無症状者が感染を広げる事態に対応できない。4月には既に経路不明の院内感染や施設内感染が各地で発生。また、厚労省は4月、陽性でも軽症や無症状ならホテルや自宅で療養できるとしていた。検査拡大で陽性者が増えても、医療崩壊に直結したかは疑問だ。

 PCR検査を巡っては、「発熱が続いても検査が受けられない」という訴えが全国で相次いでいたが、厚労省は官邸や有力国会議員に内部文書を示し、検査を抑え込もうとしていた。

◆担当局長は「抑制の意図なかった」と説明

 厚労省健康局の正林 督章局長は取材に、内部文書を説明に使ったと認めつつ、「感染の可能性やリスクが高い人に絞って検査しないと、誤判定の人数ばかり増えるという趣旨。必要な人にまで検査を抑制する意図はなかった」と説明する。

 8日公表の報告書は厚労省の対応を批判しつつ、「厚労省は保健所や医療機関に直接、指揮権限があるわけではない」とも指摘。検査が増えなかったのは厚労省だけの責任でなく、構造的問題だったとしている。

 厚労省は新型コロナで公費を活用する検査を当初、37・5度以上の発熱が4日間以上続く人や症状がある濃厚接触者らに限定。重症化リスクの高い人や地域の感染状況に応じて幅広く行えると明示したのは8月下旬だった。(井上靖史)







2021/05/14
上昌広

昨年の流行当初、専門家会議は「地方衛生研究所に法的根拠を」と提言しました。「法的根拠」が利権のキーワードです。地衛研は感染研の天下り先です。法的根拠ができれば、誰が喜ぶか明らかですね。ちなみに、岡部先生は、川崎市の地衛研に天下っています。

___

2021/05/10 コロナ感染拡大を招いた官僚の戦犯達。感染防止より年収1千万以上の天下り優先?厚生労働省医系技官の天下り。PCR検査が増えない構図と問題。元朝日...


https://youtu.be/EyPWiRB07jg


https://twitter.com/monthlymansatsu/status/1391679077778554881?s=21
 

21時公開!コロナ感染拡大を招いた官僚の戦犯達。感染防止より年収1千万以上の天下り優先?厚生労働省医系技官の天下り。PCR検査が増えない構図と問題。元朝日新聞記者ジャーナリスト佐藤章さんと一月万冊清水有高youtu.be/EyPWiRB07jg


https://twitter.com/bsm2tc2coikwrlm/status/1391716873272655876?s=21

東アジアで最悪のウイルス蔓延・医療崩壊国となった日本。その構造的原因を徹底的に語った。厚労省医系技官と天下り先の保健所。感染研と地方衛生研究所。これら「感染症ムラ」に巣食うムラびとたちはどんな人間なのか。なぜ彼らはPCR検査や変異株検査を拡充したがらないのか。「一月万冊」21時公開!

2021/05/13佐藤章:

https://twitter.com/bsm2tc2coikwrlm/status/1392848746157723650?s=12

驚愕の内情! 国際的なウイルスゲノム登録組織に提供した国立感染症研究所のデータにはウイルス採取場所や採取日時の記載がない! 場所や日時が特定されればGoToの影響がモロわかりになるからか。コロナ対策を間違い続ける感染研にはすでに存在理由がない! 菅内閣総辞職!「一月万冊」公開中!


参考:
新型コロナ、なぜ希望者全員に検査をしないの?  感染管理の専門家に聞きました
https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/covid-19-sakamoto

新型コロナ、なぜ希望者全員に検査をしないの?  感染管理の専門家に聞きました

新型コロナウイルス、不安でたまらないのに医療機関に行っても検査をしてくれない、という不満の声が聞かれます。なぜ医師は検査をしてくれないのか、そもそもその検査に意味はあるのか、感染対策のプロに一からじっくり尋ねてみました。

新型コロナウイルス(COVID-19) 、不安でたまらないのに医療機関に行っても検査をしてくれないという不満の声があちこちから聞こえてきます。

なぜ医師は検査をしてくれないのか、そもそもその検査に意味はあるのか、感染対策のプロである聖路加国際病院、QIセンター感染管理室マネジャーの坂本史衣さんに一から教えていただきました。

※インタビューは25日から26日午前にかけてメールとスカイプを使って行い、その時点の情報に基づいています。

そもそもどんな検査なの?

ーー新型コロナウイルスが流行し始めてから、「PCR検査」という言葉をよく耳にするようになりました。どんな検査か教えていただけますか?

患者さんから採取した検体(鼻やのどを綿棒で拭った液)のなかに新型コロナウイルスの遺伝子があることを、遺伝子を増幅させることで確認する検査です。

ーーどこで検査しているのですか?

厚生労働省によれば「これまで、国立感染症研究所や検疫所だけでなく、地方衛生研究所、民間検査会社や大学などの協力を得ながら、令和2年2月18日時点で1日3,000件を上回る検査体制を維持・獲得してきました」となっています。

大学病院など設備が整っているところは病院で検査が可能ですが、全ての病院で検査ができるようになっているわけではありません。民間の検査会社も厚労省からの依頼で検査を受けつけているので、病院から直接依頼はできません。

ーー結果が出るまでどれぐらい時間がかかると言われているのでしょうか?

現在病院でPCR検査を行うことはできないので、医師が検査が必要と判断したら、保健所に書面と電話で依頼し、必要と認められれば保健所が病院に検体を取りに来て、検査センターまで運び、そこから検査が始まることになります。

現在活用されている「リアルタイム RT-PCR」という方法では、検査自体は5~6時間かかります。

検査自体の所要時間は約5時間ですが、検体の受け取りから結果の報告までにそれ以上の時間がかかるため、当日中に結果が出ることは稀です。

結果の判明について厚労省は「結果が判明するまでの期間は状況によりますが、1日から数日かかります。」と言っています。その通りであると思います。

また、一度に多数の検体が検査センターに搬入されると待ち時間がさらに長くなり、結果報告までに2日ほどかかることもあります。そのため、検査をすることになった患者さんの多くは、軽症でも入院を必要とすることになります。

ーー検査は高額と言われていますが、どれぐらいかかるものなのでしょうか?

行政検査として行う場合に患者さんや病院への費用負担は生じません。実際に人件費や材料費を合わせてどの程度の費用がかかっているのかは明らかにされていません。

検査の精度はどれぐらいなの?

ーー検査の精度はどれぐらいだと考えたらいいのでしょうか?

検査の有用性を評価する指標に、「感度」「特異度」「的中率」があります。

感度とは、その検査が、陽性の人を正しく陽性と判定できる確率です。新型コロナウイルスによる感染症 (COVID-19)を引き起こすウイルスである「SARS-CoV-2」のPCR検査の感度は、30~50%70%だという報告がありますが、いずれにしても100%ではありません。

感度は様々な条件にも左右されます。

例えば、新型コロナウイルス は、感染者のウイルス量がインフルエンザの100分の1~1000分の1と言われており、そもそも検出されにくいと考えられています。

また、のどから採取した検体より、鼻から採取した検体の方がウイルス量が多く、検出率が高くなることが考えられているのですが、この方法が必ずしも用いられるとは限りません。

というのは、鼻の穴に綿棒をいれると、くしゃみなどで飛沫にさらされるリスクが高いのでためらう医療者もいるのです。国内ではのどをぬぐった液が使われることが多いと言われており、鼻に比べて感度が下がることが考えられます。

特異度とは陰性の人を正しく陰性と判定する確率で、検査は感度、特異度はトレードオフの関係にあります。

「陽性的中率」というのは検査が仮に陽性だった場合に、どのくらいその結果が正しいか(=本当にCOVID-19にかかっているのか)を示す確率です。

風邪のような症状を訴えても、COVID-19にかかっている可能性が現在のようにとても低い(=集団の中での有病率が低い)状況で検査をすると、COVID-19にかかっていないのに検査結果が陽性と出る人の絶対数も多くなることになります。

すると、陽性という結果が出た人の中で、本当に感染している人の割合である陽性的中率もかなり下がります。よって、本当はCOVID-19ではないのに陽性の検査結果が出てくる可能性も高くなります。

ーーまとめると、せっかく検査をしても、あまり精度は高くないから、その結果を100%信じるわけにはいかない検査ということになりますね。

すべての感染例を拾うことには限界がある検査です。また、陽性の結果が得られても、そもそも日本国内の有病率(事前確率)が低いので、陽性的中率は低いと考えられます。

検査で陽性ならどうなるの?

ーー現状では、この検査は何のために行われるものだと捉えたらいいですか?

COVID-19であることが臨床的に強く疑われる患者の確定診断のために実施します。

ーー検査の結果が陽性の場合、次にどんな対応が取られますか?

「指定感染症」となっていますので、感染症法に基づいて入院せねばならなくなります。その代り医療費は公費負担となります。

ーー無症状の場合でも入院することになるのですか?
現行の制度では無症状の場合でも、軽症でも検査で陽性になれば感染症法に基づいて入院措置になります。

ただし、2月25日に政府が発表した「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」によれば、今後は風邪症状が軽度である場合は、自宅での安静・療養が原則となるようです。

ーー無症状の人は入院していつまで何をするのですか?

厚労省の通知によれば、陽性が確認されてから48時間後にPCR検査を12時間間隔で行い、どちらも陰性なら退院できます。陽性となったら再度48時間まってやり直しになるので、かなり元気な状態でも病院に閉じ込められることになります。

検査の意味は変化しているの?

ーー治療法がない中で、それでも検査をする目的を教えてください。

これまでは海外の流行地域への渡航歴や滞在歴のある人や、感染者との接触者を中心に検査を実施して来ましたが、その目的は封じ込めでした。国内でヒトからヒトに広がらないようにするために、陽性者を洗い出して入院させて、初期の段階で芽を摘んでしまおうという考え方だったのです。

しかし、現在はあきらかな渡航歴や滞在歴、患者との接触歴のない感染者が発生しており、検査の目的が「封じ込め」から重症化しそうな患者(あるいはすでに重症な患者)を早く見つけて死なせないことに変わってきています。

COVID-19の患者だということが分かった段階で、試すことが可能な治療法について検討し、経過を予測しながら、重症度に応じて輸液や酸素療法、血圧を上げる薬などをつかって生命を維持できるようにサポートします。

軽症な方は殆ど何もしないで治っていきます。

ーー現状で、無症状の人、軽症の人に検査をやる意味は薄いとされていますね。検査の目的が変化しているからですね。

封じ込めを試みていた段階が終わりに近づいていますし、陽性と分かっても治療法(=できること)がないからです。今は資材や医療スタッフ、時間などの限りある医療資源を重症者のために優先的に使う必要があります。

今後は病院でも検査ができるように準備が整えられていますが、すべての病院で実施できるようになるわけではありません。

このような中で無症状あるいは軽症な方にまで検査を拡大すると、重症な患者さんの検査が後回しになる恐れが生じます。

また検査のための手続きに時間を取られ、重症な患者さんの治療に割く時間が減ってしまうことに繋がります。

ーー医療スタッフの疲弊にもつながりますね。

ウイルス感染症の検査と聞くと、インフルエンザの迅速検査のように鼻に綿棒を入れて、30分程度で結果が出てくるような簡便なものを想像する方が多いかもしれません。

しかし、SARS-CoV-2のPCR検査を行うには、書類の準備や保健所との調整、結果が出るまでの長い待機時間の間に行われる比較的厳重な感染対策のためにかなりの労力を要します。対応する保健所や検査センターの職員も同じだと思います。

広まる陰謀論「日本で検査が少ないのは政府が感染者数を少なく見せたいからだ」

ーー「韓国に比べて検査数が少ないのは日本政府が感染者を少なく見せたいからだ」というような陰謀論が広まっています。これについてはどうお考えですか?

現場で感じているのは、検査のキャパシティーを増やしているという割には、重症で本当に検査が必要な人がすぐに検査できない状況があるのは確かだと思います。

それは検査センターも手一杯で、検体を出したいと言ってもなかなか受け入れられない実情があるからだと思います。ですが、やはり必要な患者さんには速やかに検査ができる体制を一刻も早く整えることは大事だと思います。

ただ、それは軽症の人も含めて全部検査しろということではありません。国ごとに段階や医療体制が異なるので何が適正な検査数なのかを考えるのは難しいです。

韓国は新興宗教団体を中心に短期間で爆発的に広がったという特殊な状況があり、今は接触歴を追いながら封じ込めるために検査数が増えていると考えられます。

韓国のCDC(疾病管理予防センター)のウェブサイトでは、誰から感染したかという接触歴が書かれていますから、感染者が多数出ていたとしても、接触歴はまだある程度追える段階なのだろうと想像しています。

一方、日本では、誰から感染したかがわかりづらくなっている段階です。無症状の人や軽症の人まで韓国並みに検査するのは、意義が少なくなっているのです。検査が必要な人が誰なのか、状況が違うということです。

適正な医療とは何なのかということを考えて、今の段階で無症状の人を捕まえて、感度がそれほど高くない検査を行えば、あてにならない結果がどんどん出てきます。

感染した人を全員知りたいのですか?と考えた時に、そのデータを知って有益なのかという問いに答える必要もあります。無限に資源があるならやってもいいと思います。もはやそれは研究となりますが。

SNSでは「サンプリングをしても現状を把握した方がいい」という意見が流れてくるのですが、今は医療機関にも検査機関にもそんな余裕はありません。限られた資源をどうしたら有効活用できるか考えた時に、8割は軽症で済む病気だということをまず押さえないといけません。

この病気で今一番力を入れるべきは、高齢者や持病を持っている人が重症化して亡くなってしまう可能性を限りなくゼロに近づけることです。限られた医療資源をそこに振り向けなくてはなりません。

安易に検査を広げることは、そこに注げる資源を減らし、かえって国民にとってマイナスになるかもしれません。

では私たちはどのように行動したらいいのか?

ーー検査を受けられないと不安を抱いている人は、ただの風邪なのか新型コロナウイルスなのか自分で見分けられず、悪化する心配があるからでしょうね。自宅で様子をみることに危険はないですか?

ただの風邪なのか、COVID-19なのかは病院で診察を受けても見分けることが困難です。検査をしても確実に診断ができるとは限らず、仮に感染していたとしても治療の方法はありません。

心配かもしれませんが、知っておいていただきたいのは、感染者の80%は軽症で、1週間ほど風邪のような症状が続いて治ってしまうということです。また、お子さんはなぜか感染者も重症者も非常に少ないですし、妊婦さんも今のところ重症化しやすいという報告は出ていません。

重症化する危険があるハイリスクな人は、だいたい50歳より上の方や持病のある方ですが、COVID-19の進行は比較的緩やかですので、風邪症状が出たら慌てずに休養し、症状を注意深く見守ってください。

ーー一般の人はどのような症状がどれぐらい続いた時に、受診や検査を考えたらよろしいですか?

厚労省が受診の目安を公表しています。

大切なのは体調が悪いな、と思ったらまずは無理せずに休むこと。そして、37.5℃以上の発熱が4日(高齢者や持病のある方は2日)以上続く場合や、息苦しさが出てきたら、まずは帰国者・接触者相談センターに相談してください。それが医療機関をパンクさせないためにも重要です。

ハイリスクの方と同居されている方に風邪症状が見られたら、こまめな手洗いと咳エチケットを行います。

また、ハイリスクの方とはなるべく(目安としては手が届かないくらいの距離まで)離れて過ごします。家は時々窓を開けるなどして換気を行い、ドアノブなどの手でよく触るところを家庭用洗浄剤やアルコールなどで時々拭くと良いでしょう。

ーー全国的な流行はもう阻止できないところまで来ているのでしょうか。

現在国内では一部の地域で感染者の集積(クラスター)が発生している状況で、全国に感染者が広がっているわけではありません。政府は、全国的な流行の拡大を食い止めるには、この1~2週間が踏ん張り時だと言っています。

私たちにできることとして、家に帰ったらすぐに手を洗うこと、咳エチケットをすること、なるべく人込みに行かないこと、具合が悪かったら休むことなどがあります。このようなちょっとした行動の変化がヒトからヒトへの伝播を防ぐことにつながります。まだ希望を捨てる段階ではありません。

【坂本史衣(さかもと・ふみえ)】聖路加国際病院QIセンター感染管理室マネジャー

聖路加看護大(現・聖路加国際大)卒、米コロンビア大公衆衛生大学院修了。Certification Board of Infection Control and Epidemiologyによる認定資格(CIC)取得。日本環境感染学会理事、厚生労働省 厚生科学審議会専門委員などを歴任。著書に『感染対策40の鉄則』(医学書院)、『基礎から学ぶ医療関連感染対策』(南江堂)など。