1 死亡届出の提出の仕方
本ページでは、死後に速やかに行うべき優先順位の高い行政手続きや預貯金の解約手続きについて解説します。
- 期限:7日以内
- 届出先:本籍地、死亡地、届出人の所在地のいずれかの市町村役場の戸籍・住民登録窓口
- 提出するもの:医師による死亡診断書(警察による死体検案書)、届出人の印鑑
人が亡くなったときは、死亡の事実を知った日から7日以内に、死亡診断書または死体検案書を添付して、死亡の届出をしなければなりません(戸籍法86条)。
同居の親族が届出人となることが多いですが、同居していない親族、親族ではない同居者や、家主、後見人等も届出人となることができます(同87条)。
死亡の届出の場所は、亡くなった方の本籍地、死亡地、または、届出人の所在地の市町村役場ですることができます(同88条、25条1項)。
死亡届出が受理されると、住民票に死亡年月日が記載されます(住民基本台帳法施行令8条、13条)。
根拠法令:戸籍法86条、87条、88条、25条
2 火葬許可申請書の提出の仕方
- 期限:火葬をする前
- 提出先:死亡届出を受理した市町村長
- 提出するもの:火葬許可申請書
墓地、埋葬等に関する法律では、ご遺体を葬るために焼くことを「火葬」と定義しています(墓地、埋葬等に関する法律2条2項)。
火葬を行おうとする者は、死亡届出を受理した市町村長から火葬の許可を受けなければなりません(同5条1項・2項)。
この火葬許可証がなければ火葬ができませんし、焼骨を墓地に埋蔵したり、納骨堂に収蔵することができません(同14条)。
火葬許可をする市長村長は、死亡届出を受理した市町村長なので、死亡届出を提出するときに、併せて、火葬許可申請書も役所に提出すると良いでしょう。
なお、火葬の後の焼骨を「埋蔵」する場合には、別途「埋葬」許可証は必要ありません。「埋葬」とは、死体を土中に葬ることを意味しており(同2条1項)、焼骨の埋蔵は、「埋葬」ではないからです。
条文:墓地、埋葬等に関する法律
3 世帯主の変更
- 期限:14日以内
- 提出先:市町村役場の戸籍・住民登録窓口
- 提出するもの:住民異動届出
住民票には、個人の氏名、生年月日、住所などが記載され(住民基本台帳法7条)、世帯ごとに編成されています(同6条)。
世帯ごとの住民票を集めた台帳を住民基本台帳といいます。
世帯主に変更があった者(政令で定める者を除く。)は、その変更があった日から14日以内に、その氏名、変更があった事項及び変更があった年月日を市町村長に届け出なければなりません(同25条)。
世帯主が死亡したときは、新たな世帯主を役所に届出なければなりません。
具体的には、住所地の市町村役場に、住民異動届書が用意されているので、窓口で死亡の事実を伝え、書類を受け取り、提出しましょう。
条文:住民基本台帳法
4 健康保険の資格喪失届出
- 期限:14日以内
- 提出先:市町村役場の医療保険課
- 提出するもの:資格喪失届出、被保険者証、死亡の事実が分かる資料
医療保険制度の概要
日本国民は、①企業等に雇われている人が加入する健康保険組合、協会けんぽ(全国健康保険協会)などの被用者保険、②自営業者などが加入する国民健康保険、③75歳以上の方が加入する後期高齢者医療制度のいずれかの医療保険に加入しています。
協会けんぽ(全国健康保険協会)の相続手続
例えば、協会けんぽに加入している人は、死亡の日の翌日から被保険者の資格を喪失します(健康保険法36条)。
事業主は、資格の喪失を5日以内に日本年金機構に届出なければなりません(同48条、同施行規則29条)。
保険証は、遺族から事業主に返還し、事業主から協会けんぽに返還します(同施行規則51条)。
サラリーマンの妻などが夫の健康保険の扶養に入っている場合で、夫が死亡した場合には、妻は、社会保険の資格が変わるので、自ら就労して被用者保険に加入するか、自分で国民健康保険に加入するかを選択する必要があります。
サラリーマンの妻などが夫の健康保険の扶養に入っている場合、夫の生存中は、夫の加入している協会けんぽから、家族療養費という医療費の支給を受けて、3割負担で治療を行うことができますが(健康保険法3条7項、110条)、夫が死亡すると、夫の会社の社会保険の支給対象から外れるので、被用者保険などの別の保険に加入しない限り、国民健康保険の被保険者となるからです(国民健康保険法6条)。
国民健康保険に加入する場合には、死亡から14日以内に市町村に届け出る必要があります(国民健康保険法6・7・9条、同施行規則3条)。
国民健康保険の相続手続
国民健康保険に加入している人も、死亡の日の翌日から、資格を喪失します(国民健康保険法8条)。
資格の喪失を14日以内に市町村に届出し、保険証を返還しなければなりません(同9条、同施行規則12条)。
後期高齢者医療保険の相続手続
後期高齢者医療保険に加入している人も、死亡の日の翌日から、資格を喪失します(高齢者の医療の確保に関する法律53条)。
資格の喪失を14日以内に、後期高齢者医療広域連合に届出し、保険証を返還しなければなりません(同54条、同施行規則26条)。
後期高齢者医療広域連合に対する届出は、市町村が窓口になっているので、市町村役場に資格喪失届出を提出する必要があります。
条文:健康保険法、国民健康保険法、高齢者の医療の確保に関する法律
5 国民年金・厚生年金の資格喪失届出
- 期限:14日以内
- 提出先:市町村役場の年金課などの窓口、または、年金事務所
- 提出するもの:役所の所定の資格喪失届出、年金受給権者死亡届(報告書)、年金手帳、死亡の事実が分かる資料、など
死亡すると、死亡の翌日に国民年金や厚生年金保険の被保険者の資格を喪失します(国民年金法9条1号、厚生年金保険法14条1号)。
国民年金の相続手続
そして、国民年金の被保険者が死亡したとき、その遺族は、14日以内に、市町村長、または、事業主を通じて厚生労働大臣に対して、国民年金の資格喪失届出を提出しなければなりません(国民年金法105条、同施行規則4条)。
サラリーマンの妻などが、夫の扶養配偶者として国民年金法の第3号被保険者(厚生年金保険の被保険者の配偶者)として年金保険料の納付を免れていた場合には、夫が死亡すると、事業主を経由して夫の厚生年金資格喪失届出を提出するとともに、夫が死亡したことによって、自分の国民年金の被保険者の種別が第3号被保険者から第1号被保険者へと変わるため、14日以内に、市町村町に対して、変更届出を行う必要があります(国民年金法7条、12条、同施行規則6条の2)。
厚生年金の相続手続
サラリーマンなどの厚生年金保険の被保険者が死亡したとき、事業主は、5日以内に、厚生年金保険被保険者資格喪失届を年金事務所に提出しなければなりません(厚生年金保険法27条、同施行規則22条)。
年金受給権者死亡届の提出
また、年金を受けとっている受給権者が亡くなった場合には、遺族は、10日以内(国民年金は14日以内)に、年金事務所に「年金受給権者死亡届(報告書)」を提出する必要があります(国民年金法105条、同施行規則24条、厚生年金保険法98条)。
死亡の届出を怠ると、故人が受給していた老齢年金の誤入金が継続され、あとで、返還を求められることがあります。
条文:国民年金法、同施行規則、厚生年金保険法、同施行規則
6 住民票の除票の取得
- 期限:死亡届出の提出後、必要な時期に(保存期間:死亡から150年)
- 申請先:市町村役場の戸籍・住民登録窓口
- 提出するもの:役所の所定の申請書
市町村長は、その市町村の住民基本台帳に記録されている者が死亡したときは、その者の住民票を消除しなければなりません(住民基本台帳法施行令8条)。
削除された住民票を「住民票の除票」といいます。
削除するといっても、廃棄するわけではなく、住民票の除票という資料を保管するのです。
死亡診断書または検案書を添付して死亡届出が受理されると、市町村長が住民票を削除します。
したがって、住民票の除票は死亡の事実を公的に証明するものといえ、死亡を証明する資料として、法務局、金融機関、保険会社に提出することを要求されることがあります。相続手続きのためであれば、法定相続人は、住民票の除票の写しの交付を受けることができます(住民基本台帳法15条の4)。
死亡の事実だけであれば、戸籍謄本にも死亡の年月日が記載されるので、戸籍謄本で足りるのですが、住民票の除票を併せて提供しなければならないことが多いです。
みなさまは、契約をするときに住所と名前は記載すると思いますが、本籍地まで求められることがあるでしょうか。
本籍地を伝えていないまま死亡して、死亡の記載のある戸籍謄本を持参して死亡したと伝えても、戸籍謄本には住所が記載されていません。
つまり、受け手としては、お亡くなりになった方が本当にその戸籍に記載されている方か、分からないのです。
したがって、どこどこに住んでいた誰々さんが死んだということを分かってもらうために、住民票の除票が必要となるのです。
住民票の除票は、削除した日から150年間市町村に保存されます(施行令34条1項)。住民基本台帳施行令の一部改正(令和元年6月20日施行)より、住民票の除票の保存期間は150年間に延長されています。(改正前の保存期間は、住民票を消除又は改製した日から5年間でした。)
条文:住民基本台帳法15条の4、施行令8条、施行令34条1項
7 戸籍謄本の取得
- 期限:死亡届出の提出後、必要な時期に
- 申請先:市町村役場の戸籍・住民登録窓口
- 提出するもの:役所の所定の申請書
日本の家族関係を整理するため、市町村は、その区域内に本籍がある夫婦と子を1セットとして、戸籍簿を編成しています(戸籍法6条)。
結婚すると、もともと入っていた親の戸籍から除かれ、夫婦で新しい戸籍を作成し、夫婦のいずれかを筆頭者に、もう一方を2番目に、お子さんが生まれたら3番目以降に記載します(同14条)。
戸籍は、その筆頭に記載した者の氏名及び本籍で特定します(同9条)。例えば、夫を筆頭者としている場合には、その子は、「夫の戸籍に入っている」と表現します。
戸籍に入った親族が死亡すると、死亡の年月日は、死亡届出によって役所に伝わり(戸籍法86条)、役所で戸籍に記載されます(戸籍法施行規則35条6号、40条1項)。
死亡すると、死亡した人は、戸籍から除かれます(戸籍法施行規則40条1項)。除かれるといっても、跡形もなく削除されるのではなく、身分事項欄に、死亡により除籍された旨が記載されます。これを「除籍される」と表現します(戸籍法23条)。
住民票の除票は、亡くなった方の住所を証明するものです。一方、戸籍謄本は、死亡の事実と相続人が誰なのかを証明するものです。住民票の除票と戸籍謄本は、一緒に提出を求められることが多いですが、違う役割があります。
相続人が誰なのかを証明するためには、直近の戸籍謄本だけでは、婚姻前の情報が記載されていないので、相続人の全員が分かりません。そのため、亡くなった人の相続人を調べたいときは、亡くなった人の「出生から死亡までの全ての戸籍謄本」を取得する必要があります。戸籍に漏れがないように、市役所の戸籍課の窓口の人によく相談しながら集めていきましょう。
本籍地が途中で変わっている場合には、市役所ごとに取り付けをしないといけないので、全てが揃うまで時間がかかることが多いので、早めに集めましょう。
また、自分から見た兄弟や両親の兄妹などの戸籍謄本が必要な場合には、第三者請求という方法があります。相続人と連絡がつかず、住所が不明である場合には、第三者請求をして調査をしていくことになります。
相続人の住所の調べ方に関する記事はこちらの記事をご覧ください。
8 所得税・相続税の申告
- 所得税の期限:相続の開始があったことを 知った日の翌日から起算して4か月を経過した日の前日
- 相続税の期限:相続の開始があつたことを知つた日の翌日から10月以内
- 申請先:税務署
- 提出するもの:税務署の所定の申告書
遺産が一定額を超える場合、相続税の申告をする必要があります。
また、生前に商売や不動産業などで収入を得ていた場合には、それらの確定申告もする必要があります。このことを準確定申告といいます。
たとえば、5月20日に死亡し、同日に死亡の事実を知った場合には、9月20日までに所得税の申告をして、翌年の3月20日までに相続税の申告をする必要があります。
9 遺産分割前の預貯金の払戻し(※必要があれば)
- 期限:遺産分割前に預貯金を払い戻す必要があるとき
- 申請先:各金融機関
- 提出するもの:相続人の範囲が分かる戸籍謄本、金融機関所定の必要書類
預貯金は、相続人全員の実印が押された遺産分割協議書がなければ、解約することが原則としてできません。
しかし、何らかの理由で、相続人全員の実印が揃う前に、一部だけでも預貯金を解約したいというケースがあります。
そこで、令和元年7月1日に施行された民法909条の2の規定により、相続人が単独で、法定相続分の3分の1の額(金融機関ごとに上限150万円)の額を払戻しできるようになりました。
例えば、夫が一つの金融機関に300万円の預金をもっており、妻に2分の1、子に2分の1の法定相続分がある場合、夫の死後、50万円までであれば、妻が単独で、預金の引き落としができます。
(計算式)300万円×2分の1×3分の1=50万円
なお、この制度は、時間との制約から、遺産分割協議を待たずに、暫定的に支払をするものですので、残りの遺産を分割するときには、単独で受け取った50万円の金額は調整されるので、制度を利用した方が多くもらえるという制度ではありません。先に一部を受け取るだけの制度です。先に一部を受け取る必要がなければ、原則どおり、相続人で遺産分割協議書を作成するか、家庭裁判所などでの取決めをしましょう。
10 その他の相続の手続き
ここまで、死後に速やかに行うべき優先順位の高い行政手続きや預貯金の解約手続きを説明してきました。
行政関係の手続きが終わった後は、遺産や債務や契約の整理が必要です。
是非、以下のページの中からお調べになりたい項目をご覧ください。
葬儀費用や香典の負担方法
葬儀費用や香典の負担についての解説は、こちらのページをご覧ください。
葬祭費・埋葬料・遺族年金の手続き
遺族が忘れずに申請しておくべき葬祭費・埋葬料・遺族年金などの手続は、こちらのページをご覧ください。
相続の放棄
相続の放棄の解説はこちらのページをご覧ください。
契約の解約
故人の契約の解約に関する解説は、こちらのページをご覧ください。
遺産分割協議書の作成
遺産分割協議書の作成の仕方はこちらのページをご覧ください。
相続人の住所の調査
相続人に行方不明の方がいる場合の所在調査の方法はこちらのページをご覧ください。
不動産の相続
不動産の相続に関する解説は、こちらのページをご覧ください。
株式の相続
株式の相続に関する解説は、こちらのページをご覧ください。
遺留分の請求
労災事故の手続き
労災事故に関する解説は、こちらのページをご覧ください。
交通事故の手続き
交通事故に関する解説は、こちらのページをご覧ください。
11 遺産相続を弁護士に依頼するケース
遺産相続をサポートする専門家としては、税理士・弁護士・司法書士などが挙げられます。
この中で、相続人同士や第三者との交渉が必要な相続事件の解決は、弁護士が専門です。
そして、以下のようなケースでは、弁護士に依頼することで、相続問題を解決できる場合があります。
- 交通事故や労災事故で死亡したので損害賠償請求をしたい。
- 相続人と連絡がつかない
- 遺産として何があるかが分からない
- 遺言書の内容に納得ができない
- 生前に多くの贈与がされており残った遺産だけでは平等ではない
- 不動産の分け方がきまらない
- 株式の分け方がきまらない
- 会社が保険料を払っていた生命保険があるけれど会社と話がすすまない
- 供養の費用でもめている
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死亡後の手続きチェックリスト一覧:2022年版
死亡後の手続として、まず7日以内に死亡届を提出しなくてはいけません。また火葬の前までに火葬許可申請書も提出します。厚生年金や国民年金などの年金、各種保険の資格喪失等の手続も行わなくてはいけませんが、14日以内などの期限の定められているものが多く注意が必要です。ここでは、およそ期限の早いものから届出先・必要なものなどをまとめてありますが、死亡に関する手続は、期限のあるものが多いため注意が必要です。
死亡後に必要な手続一覧
- 1 死亡届出の提出
- 2 火葬許可申請書の提出
- 3 世帯主の変更
- 4 健康保険の資格喪失届出
- 医療保険制度の概要
- 協会けんぽ(全国健康保険協会)の相続手続
- 国民健康保険の相続手続
- 後期高齢者医療保険の相続手続
- 5 国民年金・厚生年金の資格喪失届出
- 国民年金の相続手続
- 厚生年金の相続手続
- 年金受給権者死亡届の提出
- 6 住民票の除票の取得
- 7 戸籍謄本の取得
- 8 所得税・相続税の申告
- 9 遺産分割前の預貯金の払戻し(※必要があれば)
- 10 その他の相続の手続き
- 葬儀費用や香典の負担方法
- 葬祭費・埋葬料・遺族年金の手続き
- 相続の放棄
- 契約の解約
- 遺産分割協議書の作成
- 相続人の住所の調査
- 不動産の相続
- 株式の相続
- 遺留分の請求
- 労災事故の手続き
- 交通事故の手続き
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