2023年1月31日火曜日

SAF(持続可能な航空燃料)とは?特徴や製造方法、開発企業を紹介:【SDGs ACTION!】朝日新聞デジタル

SAF(持続可能な航空燃料)とは?特徴や製造方法、開発企業を紹介:【SDGs ACTION!】朝日新聞デジタル

SAF(持続可能な航空燃料)とは?特徴や製造方法、開発企業を紹介

2022.08.08 (最終更新:2022.12.03)

SAF(持続可能な航空燃料)とは?特徴や製造方法、開発企業を紹介
SAF(サフ:持続可能な航空燃料)とは?(デザイン:増渕舞)

IHテクノロジー社顧問・ブロガー/財部明郎


輸送部門の気候変動対策として、自動車については電動車や水素を燃料とする車両の導入が進められていますが、航空機の燃料は、電動化や水素では難しい面があります。そこで期待されているのが、「SAF」といわれる燃料です。この記事ではSAFの原料や作り方、開発企業などについて紹介します。

財部明郎(たからべ・あきら)
1953年生まれ。1978年九州大学大学院工学研究科応用化学修了。同年三菱石油(現ENEOS)入社。以降、本社、製油所、研究所、調査会社などを経て2019年退職。在職中はエネルギー調査のため世界20カ国以上を訪問。また、ブログ「世界は化学であふれている」を運営し、エネルギー、自動車、プラスチック、食品などを対象に、化学や技術の目から見たコラムを執筆している。石油産業誌に『明日のエコより今日のエコ』連載中。技術士(化学部門)。

目次

  • (1)FT-SPK(FT合成油)
  • (2)Bio-SPK HEFA(水素化植物油)
  • (3)ATJ-SPK(アルコール合成パラフィン)
  • (1)大気中のCO2を増やさない
  • (2)従来の燃料と同じように使える
  • (3)安定したエネルギー源になる可能性がある
  • (1)海外の取り組み
  • (2)日本の取り組み

1.SAF(サフ)とは

SAF(サフ)とは、持続可能な航空燃料(Sustainable Aviation Fuel)のことです。

飛行機やヘリコプターのような航空機で使われている燃料はジェット燃料か航空ガソリンですが、これらはほとんど石油から作られています。石油は油田から掘り出され、燃料として使ったら二酸化炭素(CO2)と水蒸気になってしまい、もうもとに戻すことはできません。

一方で、SAFの原料は主に植物であり、使えば同じくCO2と水蒸気になりますが、それらは再び植物に取り込まれてしまいます。エネルギー源として実質、永続的に使える航空機用燃料、特にジェット燃料の代替となる燃料をSAFといいます。

2.SAFの原料と製造方法

SAFは、いま世界中で研究開発が進められています。しかし、まだ決定的な製造技術はありません。現在のところは、さまざまな原料や製造方法が提案されている段階です。

ところで、現在使われているジェット燃料とはどんなものかご存じでしょうか。実はおなじみの灯油なのです。ガソリンスタンドで売られているあの灯油と同じものだというと、読者の方は驚かれるかもしれません。しかし実際に、民間航空機用のジェット燃料は灯油そのもの、あるいは灯油に酸化防止剤や帯電防止剤のような添加剤を少量加えたものが使われています。

灯油は原油を蒸留して、沸点が170度から250度の範囲を持つ成分を取り出したあと、精製したものです。化学的には炭素と水素からできた炭化水素といわれるもので、炭素の数は10個から15個程度。その炭素原子が鎖のようにつながった骨格の周りに、水素が結合したパラフィンとよばれる化学構造をしています。

SAFは、このような灯油と同じ炭素数のパラフィン炭化水素を、石油ではなく、主に植物などの有機物を原料として人工的に作り出したものです。

ではどうやって、有機物からSAFを作り出すか。化学者ならいろいろな方法が思い浮かぶはずで、実際にさまざまなSAFの製造方法が提案されています。アメリカの規格協会ASTMインターナショナルは、そのSAFの作り方を以下の表に示すように七つのカテゴリーに分けています。

SAFの製法の七つのカテゴリー
ASTMインターナショナルの資料をもとに筆者作成

この分類の中から、今回は主な製造方法を三つ紹介しましょう。

(1)FT-SPK(FT合成油)

原料は廃木材や林地残材、農業廃棄物、紙ごみなどバイオマス全般が想定されています。これらの原料を蒸し焼きにしてガスにしたあと、フィッシャー・トロプシュ法(FT合成法)という方法でガス分子を結合させて、灯油と同じパラフィン構造の液体燃料にする方法です。

この方法は炭素や水素をいっぱい含んで複雑な構造をしたバイオマスを、炭素1個の分子と水素分子にいったんばらばらにしたうえで、再びつなぎ合わせて液体の燃料とするものです。

一度ガスに分解して、再び合成するのですから手間がかかりますが、非常に幅の広い原料に適用することができます。FT合成法はすでに石炭や天然ガスから液体燃料を作る技術として確立しています。FT-SPKは、この方法をバイオマスに適用しようというわけです。

(2)Bio-SPK HEFA(水素化植物油)

原料として使われるのは、ナタネ油や大豆油、パーム油のような植物油やラードのような動物性の油脂です。植物油や動物油の分子は灯油の3倍くらいの大きさがあるので、高温高圧の水素を使ってジェット燃料に適した分子の大きさに分解します。

油脂類を使った燃料はすでにバイオディーゼルとして世界中で製造販売されていますが、変質しやすいという問題がありました。油脂類を水素を使って分解すると、変質しにくい安定した品質のSAFにすることができます。HC-HEFAは、原料として微細藻類から採取される油脂を使いますが、製造方法はほぼ同じです。

(3)ATJ-SPK(アルコール合成パラフィン)

メタノールやエタノール、ブタノールのようなアルコール類を原料としてジェット燃料と同じ性質・状態の燃料とする方法です。アルコール類の炭素数は1個から4個と小さく、さらに酸素原子が含まれています。ですから、まず酸素を取り除き、さらに分子同士をつなぎ合わせて、ジェット燃料に適した大きさの液体燃料にします。

例えばエタノールを原料とした場合、酸素を取り除いてエチレンという物質に転換し、これをポリエチレンを作るときと同じ方法でつなぎ合わせれば、ジェット燃料と同じ程度の分子にすることができます。

原料となるエタノールは穀物や糖類を発酵させて、お酒と同じ方法で製造することができ、すでに世界中で自動車用の燃料として使われています。原料として、穀物や糖類ではなく、樹木や草本類、農業廃棄物などを使う研究も進められています。

3.SAFが注目される理由

SAFが注目されているのには、次のような理由があります。

(1)大気中のCO2を増やさない

SAFが注目される一番の理由は何と言っても、空気中のCO2を増やさないということでしょう。SAFも燃料として燃やしてしまえばCO2を排出しますが、排出されるCO2は原料となる植物が成長するときに大気から吸収していたものです。石油のように地下にあったものを掘り出しているわけではないので、原理的に空気中のCO2を増やしません。

この点から、SDGs(持続可能な開発目標)の目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」や目標13「気候変動に具体的な対策を」に寄与する燃料といえるでしょう。

SDGs目標7と13のアイコン

(2)従来の燃料と同じように使える

SAFが注目されるもうひとつの主な理由は、従来のジェット燃料とほとんど同じ使い方ができるという点です。

気候変動対策なら、自動車と同じように電気や水素を使えばよいのではないか、と思われるかもしれません。しかし、航空機はこれが難しいのです。

電気を使うならバッテリーに電気を蓄えておく必要がありますが、ジェット燃料と同じ量のエネルギーを蓄えようとすると、バッテリーの重さはジェット燃料の100倍近くになってしまいます。航空機にとって重いというのは決定的な弱点です。また、電気を使うならモーターを回すプロペラ機にならざるを得ないので、ジェット機には使えないという問題もあります。

水素ならどうでしょう。水素ならジェット機にも使える可能性があります。しかし、水素専用のジェットエンジンを新たに開発する必要がありますし、水素を狭い機内に蓄えるためには非常に高圧のボンベが必要となります。圧縮のためのエネルギー消費も大きく、また安全性の問題もあります。

SAFなら、従来のジェット燃料と同じパラフィン構造の液体燃料のため、今までのジェット燃料と同じ取り扱いが可能となり、現在運用されている航空機の燃料タンクにそのまま入れて使うことができます。このような燃料は、そのまま燃料タンクに投げ込んで使うことができるという意味で、ドロップイン燃料といわれます。

また、SAFならエンジンや機体を新しく開発する必要がなく、燃料の貯蔵や流通インフラも現在と同じものがそのまま使えるというのも魅力です。

(3)安定したエネルギー源になる可能性がある

SAFの原料は農作物や農林業廃棄物などで、石油のように限られた地域から産出されるものではありません。このため、原料は国産あるいは、限られた地域からの輸入に頼らない、安定したエネルギー源になる可能性があります。

ちなみに、筆者は下水汚泥(おでい)を原料とするのもひとつの手ではないか、と考えています。下水汚泥を発酵させてメタンを作り、このメタンを使ってFT合成法でSAFを作ることは技術的に可能です。都市の人口密度が高く、下水道が発達した日本にはこの方法が向いているのではないでしょうか。この技術が完成すれば、私たちのうんちでジェット機が空を飛ぶことになり、うんちが重要な国産エネルギー源ということになるかもしれません。

4.SAF普及のための取り組み

さまざまなメリットがあるSAFですが、では実際に普及のためにどのような取り組みがなされているのでしょうか。ここでは、海外と日本に分け、それぞれ政府・開発企業・利用する航空会社という観点から見ていきます。

(1)海外の取り組み

①各国の動き

国際民間航空機関(ICAO)は国際民間航空機から排出されるCO2については、2020年以降、総排出量を増加させないという目標を定めました。これを受けて世界の航空会社が目標達成の対策を検討しています。SAFはその有力な方法のひとつです。

国際航空からのCO2排出量予測と排出削減目標のイメージ

国際航空からのCO2排出量予測と排出削減目標のイメージ
国際航空分野の温室効果ガス排出削減制度への参加を決定|国土交通省 を一部加工

アメリカでは、SAFについて税制優遇政策をとり、また2030年までにアメリカの航空燃料需要の10%、2050年までに100%をSAFで賄うという目標を掲げています。

ヨーロッパでは、使用される航空燃料のうちSAFが占める割合として、2030年には5%、2050年に63%を航空燃料供給業者に義務づけることが提案されています。

②各国における開発の動き

SAFを開発している海外の企業は非常にたくさんあります。このうち、2022年7月現在でフライト段階に達した企業は以下の5社です。

・ワールドエナジー社(アメリカ)HEFA法

・ハネウェルUOP社(アメリカ)HEFA法

・ジーボ社(アメリカ)ATJ法

・ネステ社(フィンランド)HEFA法

・トタルエナジーズ社(フランス)SIP法

ネステ社のタンクローリー
ネステ社のタンクローリー(同社提供)

③各国の航空会社の動き

2022年7月現在、ヨーロッパ、アメリカ、オーストラリア、そのほかの、世界53の空港でSAFが提供されています。2022年6月には、アラブ首長国連邦のEtihad Airways PJSC(エティハド航空)が、伊藤忠商事のSAFを利用し始めました。

(2)日本の取り組み

①国の動き

国土交通省は2030年時点において、日本のエアラインによる燃料使用量の10%をSAFに置き換えるという目標を設定しています。しかし、その具体的な進め方は決まっていません。政府内に「持続可能な航空燃料(SAF)の導入促進に向けた官民協議会」が作られ、審議されているところです。

②日本における開発の動き

日本でもさまざまな企業がSAFの開発に取り組んでいますが、実際にフライトまで進んだのはユーグレナ(廃食用油、藻類油)、IHI(藻類油)および三菱パワー・JERA・東洋エンジニアリングの企業連合(木質バイオマス)です。

そのほか、石油会社ではENEOSがATJとFT合成を用いた方法、出光興産はATJ技術を使った方法を開発中。ベンチャー企業ではレボインターナショナル(廃食用油)やMOIL社(カメリナ油)なども開発に取り組んでいます。

③日本の航空会社の動き

2022年7月現在、日本においてSAFを使用した例はそれほど多くはありません。

全日本空輸(ANA)はネステ社から購入したSAFを使い、2020年11月から定期便の運航を開始しています。日本航空(JAL)はアメリカのフルクラム・バイオエナジー社から一般廃棄物を原料として製造したSAFを購入して、2023年から定期便に導入する計画にしてます。

また、ANAとJALは2022年3月に日揮、レボインターナショナルとともに「ACT FOR SKY」という有志団体を設立し、国産のSAFの普及を目指しています。ACT FOR SKYにはこの4社以外に、石油会社や商社、エンジニアリング会社などの12社も参加しています。

ANAが報道陣に公開したネステ製SAFの給油作業
ANAが報道陣に公開したネステ製SAFの給油作業=2020年11月、羽田空港(撮影・朝日新聞)

5.SAFの課題と今後の展望

今のところ、SAFにはいくつかの問題があります。ひとつはコストの問題。現在のジェット燃料の価格が1Lあたり100円であるのに対して、SAFの製造コストは製造方法にもよりますが1Lあたり200円から1600円といわれ、今後、コストを引き下げる努力が必要となります。

また、SAFを普及させるには大量に製造する必要がありますが、その原料調達の問題もあります。今のところ実際にフライト実績があるSAFの原料として最も多く使われたのは廃食用油ですが、もともと存在する量が少なく、市場では奪い合いになっているともいわれます。それ以外では、カメリナ油やジャトロファ油などの植物油を原料とした例もあり、一般廃棄物(都市ごみなど)を使う方法の開発も進んでいます。

6.SAFの今後の進展から目が離せない

大気中のCO2を増やさない燃料として、SAFが注目されており、世界中で開発競争が始まっています。やがてSAFの製造方法がいくつかに絞られ、大量生産されて石油系燃料に代わる航空燃料の主力になることが理想です。

さらに、SAFは航空機だけでなくディーゼル燃料として自動車に使ったり、プラスチックや合成繊維の原料にしたりもできます。実際、ユーグレナ社は「サステオ」という商品名で、一般への販売を開始しました。

今まで自動車用のガソリンやその他の燃料を作ってきた製油所は、今後生産量が減っていくと予想されていますが、そのような遊休製油所を使ってSAFやバイオプラスチックをはじめ、さまざまなバイオ製品が作られるようになるかもしれません(バイオリファイナリーといいます)。

SAFの今後の進展から目が離せないでしょう。

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