2025年7月10日木曜日

フライトレコーダは語る: 技術者が挑む日航123便墜落の真相 | 米山 猛, 安河内 正也 |本 | 通販 | Amazon


https://www.amazon.co.jp/フライトレコーダは語る-技術者が挑む日航123便墜落の真相-米山-猛/dp/B0DZ2PNJTN

2025年5月31日に日本でレビュー済み
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私の知る限りでは、金沢大学の米山猛名誉教授が執筆された一般向け書籍の3冊目です。前の2著である「人と技術の社会責任 グローバル人として人類と技術の課題を考える」と「世界平和の設計論」とはアプローチが異なり、40年前に起きた日航123便墜落事故の真相をフライトレコーダの記録を分析したものとなっています。米山先生と共著者である技術士の安河内さんが難解な航空機の分野、しかも航空機の事故にどのようなアプローチをするのか興味を惹かれて本書を手にしました。
導入部分の第2章では飛行機がどのようにバランスをとって姿勢を保ちながら飛ぶためには、エンジン推力と多数ある方向舵をどのように操っているのかが、高校生の物理の知識で充分理解できるように記されています。図解が多数入っていますので、高校の物理はちょっと…と言う方にも図で理解することができます。私は飛行機の自重を主翼が発生する揚力で持ち上げている、という程度の知識しかありませんでしたが、飛行機は支え無しに空中に浮いてしかも前に向かって進んでいるので、これだけでは飛行機の運動を理解するためには全く足りないことがよく分かりました。姿勢を保って目的地に向かって飛んでいためには、右折、左折だけではなく、上昇、下降を如何に行うかが重要になってきます。日航123便は、方向舵を動かすための油圧系が破損してほとんどエンジン推力しかコントロールできない状態でどのように飛行を続けていったのか、無念な結末が思い起こされながらも、なんとか無事着陸する道はなかったのかと自答しながら、引き込まれるように読み進めていきました。
日航123便のたどった経路について、伊豆半島上空で「異常」が発生したことと、羽田に戻ってくる可能性を追求していたことは知っていましたが、山梨県の大月の上空をぐるりと一周したこと、在日米軍が戦後80年以上駐留している横田基地に着陸許可を申請し、いったんは許可されていたことを、初めて私は知りました。
米山先生と安河内さんは、フライトレコーダに記録された伊豆半島上空から御巣鷹山まで18時24分から18時56分までの32分間のデータを詳細に検討されています。フライトレコーダの記録は事故調査報告書に時系列のグラフとして印刷して提供されています。それを読み取って数値化して分析するのは骨の折れる作業だったと思います。第6章の図6.7に代表されている横揺れ角、縦揺れ角、飛行高度等のグラフからは、パイロットが懸命に飛行を維持している際に生じた上下左右の蛇行の様子が克明に記されています。機体がこんなに振り回されても冷静に操縦を続けたパイロットの姿が目に浮かぶようで頭が下がる思いでした。
詳細は本書に譲りますが、米山先生がフライトレコーダの記録から導かれた異常発生の原因と墜落の原因は、圧力隔壁の破損によって垂直尾翼と補助動力ユニットが失われたことが事故の原因になっているという、よく知られている事故調査報告書とは大きく異なったものになっています。安河内さんは事故調査委員会の結論に疑問を呈しつつも、政治的な外圧を受けにくいフライトレコーダの記録を印刷物の形ではあるけれども公開して後生に付託していることは評価されています。思い込みによる陰謀論で事故の原因を創作するのではなく、データを解析することによって原因を推定する、という技術者としての基本を本書によって改めて教えていただくことができました。

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