デジタル法隆寺宝物館
デジタル技術が可能にする古代美術のあらたな鑑賞体験
奈良・法隆寺(ほうりゅうじ)は、聖徳太子の発願により7世紀初頭に建立された名刹です。その西院伽藍(さいいんがらん)のうち金堂(こんどう)・五重塔・中門・回廊などの建物は、現存する世界最古の木造建造物として知られます。明治11年(1878)、法隆寺に伝来した宝物300件あまりが皇室に献納されました。これらの宝物すべてを収蔵・展示することを目的として、昭和39年(1964)、東京国立博物館に法隆寺宝物館が開館し、平成11年(1999)の建て替えを経て今日に至ります。
デジタル法隆寺宝物館は、常時展示がかなわない法隆寺ゆかりの名宝を、デジタルコンテンツや複製でくわしく鑑賞、体験する展示室です。2023年1月31日からは法隆寺献納宝物である国宝「聖徳太子絵伝」を、8月1日からは「法隆寺金堂壁画」をテーマに、臨場感あふれるグラフィックパネル(複製)と、大型8Kモニターで絵の詳細まで自在に鑑賞できるデジタルコンテンツを展示します。また、伎楽面や装束の当初の姿を考証した復元模造では、かつて人々を魅了した伎楽という芸能の色鮮やかな世界観にふれることができるでしょう。
展示予定
デジタル法隆寺宝物館は、半年毎に展示替します。
2023年1月31日(火)~2023年7月30日(日)
- デジタルコンテンツ:8Kで文化財 国宝「聖徳太子絵伝」 2018~2019年制作
- グラフィックパネル:国宝「聖徳太子絵伝」(原寸) 10面 2022年制作
- 複製:伎楽面 呉女 1面 2019年制作
- 複製:伎楽装束 裳 1領 2021年制作
2023年8月1日(火)~2024年1月28日(日)
- デジタルコンテンツ:「法隆寺金堂壁画」写真ガラス原板デジタルビューア 2020年制作
- グラフィックパネル:「法隆寺金堂壁画」(縮小) 12面 2022年制作
- 複製:伎楽面 呉女 1面 2019年制作
- 複製:伎楽装束 裳 1領 2021年制作
展示のみどころ
2023年1月31日(火)~2023年7月30日(日)
国宝「聖徳太子絵伝」
秦致貞 筆/平安時代・延久元年(1069)/綾本着色/ 10 面/東京国立博物館
聖徳太子(574-622)は用明天皇の第二皇子で、飛鳥時代、推古天皇のもと仏教の興隆や遣隋使の派遣、十七条憲法の制定などに力をつくしました。伝記にあたる『聖徳太子伝暦』が10世紀に成立したのち、その生涯を絵画化した絵伝が数多く作られました。なかでもこの作品は、現存最古のもっとも優れた聖徳太子絵伝であり、11世紀やまと絵の説話画としても貴重です。かつて法隆寺絵殿の内側を囲った全10面の大画面には、法隆寺のある斑鳩(いかるが)の地を中心に、飛鳥(あすか)や難波(なにわ=現在の大阪府)、さらに中国・衡山(こうざん)までを見渡す雄大な景観が描かれ、聖徳太子の生涯を追体験するかのような空間を作り出します。
*会場では原寸大のグラフィックパネルを展示 *原品の展示予定は未定
8Kで文化財 国宝「聖徳太子絵伝」
〈8Kで文化財 国宝「聖徳太子絵伝」〉操作画面トップ
国宝「聖徳太子絵伝」は、かつて法隆寺の絵殿(えでん)を飾っていた大画面の障子絵です。平安時代・延久元年(1069)、絵師・秦致貞(はたのちてい)によって描かれました。10面からなる横長の大画面に、聖徳太子の生涯にわたる50以上もの事績が散りばめられています。数ある聖徳太子絵伝のなかでもっとも古く、初期やまと絵の代表作にあげられます。しかし、長い年月を経て画面のいたみがひどく、肉眼で細部まで鑑賞することはかないません。 デジタルコンテンツ〈8Kで文化財 国宝「聖徳太子絵伝」〉は、本作品の高精細画像を、大型8Kモニターに映し出すアプリケーションです。1面およそ縦1.9m×横1.5mの本作品を、計28区画に分割して撮影し、画像をつなぎ合わせて1面で18億画素の画像データを作成しました。鑑賞者自身の操作により、2面で36億画素という画像データがリアルタイムに処理され、70インチ8Kモニターに表示されます。
国宝「聖徳太子絵伝」の見たい部分を大きく拡大すると、聖徳太子の表情までくわしく確認することができます。聖徳太子の生涯のエピソードから見たい場面を選び、その場面の解説もお楽しみいただけます。およそ千年前に描かれた国宝の絵伝と聖徳太子の魅力を、8K画質でじっくりとご堪能ください。
*デジタルコンテンツ制作 : 文化財活用センター、NHKエデュケーショナル
*日本語・英語に対応しています
【部分】1歳、太子の誕生を祝う宴(第1面)
【部分】11歳、雲のように空に浮かぶ(第1面)
【部分】12歳、百済の賢者、日羅と会う(第10面)
【部分】16歳、父の用明天皇を見舞う(第3面)
2023年8月1日(火)~2024年1月28日(日)
重要文化財「法隆寺金堂壁画写真ガラス原板」
昭和10年(1935)撮影/ガラス乾板(コロタイプ原板)/363枚/奈良・法隆寺
大壁4面の四方四仏と、小壁8面に描かれた菩薩の計12面からなる「法隆寺金堂壁画」は、焼損以前より高く評価されていました。当時古社寺保存会長であり帝国博物館(のちの東京国立博物館)初代総長をつとめた九鬼隆一(くきりゅういち)は、大正9年(1920)刊行の『法隆寺壁画保存方法調査報告書』で、次のように述べています。
「法隆寺金堂ノ壁画ハ現今世界ニ知ラレタル東洋各国壁画中最モ優秀ナル者タルコトハ一般ニ認メラル所(以下略)」
法隆寺の「法隆寺金堂壁画写真ガラス原板」は、便利堂が所有する写真原板(同時に撮影された四色分解写真、赤外線写真など83枚)とともに平成27年(2015)、重要文化財に指定されました。その翌年から5年をかけてクリーニング等の修理が行なわれたのち、デジタルデータ化が進められました。
法隆寺金堂内陣、〈「法隆寺金堂壁画」写真ガラス原板デジタルビューア〉操作画面より
*会場では縮小グラフィックパネルを展示
法隆寺金堂壁画 写真ガラス原板デジタルビューア
7世紀後半から8世紀はじめに制作されたとみられる「法隆寺金堂壁画」は、かつて法隆寺金堂の内壁(外陣)にあった大画面壁画です。昭和24年(1949)1月26日、火災により焼損しました。「法隆寺金堂壁画」写真ガラス原板は、美術印刷会社便利堂によって昭和10年(1935)に撮影されたもので、焼損前の金堂壁画の姿を今に伝えます。
デジタルコンテンツ〈「法隆寺金堂壁画」写真ガラス原板デジタルビューア〉は、363枚ある写真ガラス原板から高精細スキャナーをもちいて画像データを取得、データ接合した高精細画像を、大型8Kモニターに映し出します。画像データ取得にあたり、1500dpiの解像度でデータを取り込む専用のスキャナーが開発されました。写真ガラス原板1枚を5つに分割して画像データを取得、撮影時のレンズの歪みや現像時に生じた濃淡の差などを補正し、複数の画像を接合しています。壁画1枚の画像は、大壁で300億画素、小壁で170億画素を超えます。
2020年、〈「法隆寺金堂壁画」写真ガラス原板デジタルビューア〉がオンライン上で公開され、PCやタブレット、スマートフォンで閲覧可能です。本会場では、それを70インチの8Kモニターで鑑賞いただきます。仏教美術の至宝と称えられた法隆寺金堂壁画、その線描の美しさを大画面モニターでお楽しみください。
*デジタルコンテンツ制作 : 法隆寺、奈良国立博物館、国立情報学研究所高野研究室
*デジタルコンテンツ制作協力 : 文化財活用センター、便利堂
*日本語・英語に対応しています
- 「法隆寺金堂壁画」写真ガラス原板デジタルビューア
- https://horyuji-kondohekiga.jp/index.html
- オンラインで閲覧できます。
第二号壁 菩薩像/「法隆寺金堂壁画」部分
第六号壁 阿弥陀浄土図/「法隆寺金堂壁画」部分
伎楽と法隆寺宝物館
復元模造伎楽面・装束 展示風景
伎楽は、飛鳥時代に大陸から伝来した、野外でおこなう仮面芸能です。国宝「聖徳太子絵伝」(第5面)には、推古天皇20年(612)、百済(くだら)から帰化した味摩之(みまし)という楽人が、呉(くれ=現在の中国)に学んだ伎楽舞(くれのうたまい)を習得していると聞き、聖徳太子は少年を集めて習わせたという場面が描かれています。伎楽は平安時代には廃れ、今日では資料や仮面の銘などにより役名を伝えるのみです。
伎楽面は、法隆寺献納宝物(東京国立博物館蔵)の31面のほか、正倉院や東大寺に伝わります。現存するほとんどが奈良時代の作ですが、法隆寺伝来の伎楽面には、飛鳥時代の作が含まれることが特徴です。
東京国立博物館と文化財活用センターは、2019年に伎楽面〈呉女〉と〈迦楼羅〉を、2021年に伎楽装束〈裳(も)〉と〈袍(ほう)〉の復元模造を製作しました。現存する資料から、色やかたちについて検討を重ね、本来の姿を再現しました。
法隆寺献納宝物の伎楽面の原品は、法隆寺宝物館〈第3室〉で展示しています。
*作品保護のため、金曜日と土曜日に限定して公開しています。
右:複製 伎楽面 呉女(2019年)
展示予定(複製):1月31日(火)~7月30日(日)
右:複製 伎楽面 迦楼羅(2019年)
展示予定(複製):8月1日(火)~2024年1月28日(日)
*令和4年度日本博イノベーション型プロジェクト 補助対象事業(独立行政法人日本芸術文化振興会/文化庁)
0 件のコメント:
コメントを投稿